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君と香りと記憶と

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ふわりふわり。
少し開いた窓の隙間から甘い香りが鼻孔をくすぐった。



海堂の部屋で中間テストの為、苦手だと言う数学の勉強に付き合っていたのだが、この風に乗ってやってくる香りの正体が頭の隅で思い出せそうで思い出せずにいる為、燻り続けていた。その為、珍しくも先ほどから乾は集中力が散漫になり困っていた。
「? 先輩?」
さすがの海堂も問題を解きながらそんな乾の様子に気が付き小首を傾げる。
「どうしたんスか?」
ペンを止め、不思議そうな声で乾を見つめた。
すると乾は難しい顔をしつつ肩をすくめる。
「うーん…。この外からやってくる匂いは何だろうってね。よく嗅ぐ匂いなんだけど、何か出てこないんだよ」
言われて、海堂も鼻をスンとならす。
甘い優しい香りが部屋いっぱいに広がっている事に気が付いた。
「ああ、金木犀ですね」
言われて乾も相づちを打つ。確かに金木犀の香りだと思った。
それは簡単な問題だったのに、何故今まで気が付かなかったのかとため息を吐く。
「ありがとう、海堂。お前のおかげでスッキリしたよ」
礼を述べれば海堂は少し赤い顔になる。
「そんな、礼とかもらうよなコトじゃないですよ」
恥ずかしがって礼の言葉を素直に受け止めきれずにいる海堂をかわいいと思いながら、母親が入れてくれたアイスティーを飲む。
海堂は乾の疑問も解決したので、また問題に向かって視線を教科書とノートに移した。
ぼんやりとそんな海堂を見ながら不意に閃いた。
「香りって何かの記憶と結びつく事で記憶していく事が多いんだよね」
「…は?」
突然の言葉に目線を上げる。
乾は口元いっぱいに笑いを見せている。
「香りを感じ取る嗅覚は人の最も原始的な感覚のひとつといわれてて、だから脳の中の記憶ともストレートに繋がるのかもしれないな。と、思ったんだ」
「はぁ」
乾が言いたい事が何に結びつくのかよく分からず海堂は手を止め彼の言葉に聞き入る。
「今まで俺の中で金木犀に繋がる記憶が無かったんだけど、今日の事でこれからはこの香りが金木犀だってすぐに思い出すな、きっと」
「なんでっスか」
満足げに言葉を紡ぎ笑う乾の言葉の意味が分からず海堂は質問する。
その質問をまるで待っていたかの様に乾は囁いた。
「だって海堂が教えてくれたから。この香りと記憶を思い出せば海堂の事も思い出す。とても良い思い出だな」
あまりのクサイ台詞に海堂は真っ赤になりながら出てこない言葉を懸命に探す。
結局のところ出てきたのは。
「バカか…アンタ」
たった一言だったか、乾は彼が照れているのは十分すぎるほど理解できるしそんな彼の顔ですらこの記憶の一部になるだろうと思い幸せな気分になる。
願う事なら、彼もこの香りを思い出す時に自分を思い出してくれればいいのになぁと感じる。しかしそれはあまりにも独り善がりなわがままだとも思い、口にはせずそっと目の前にある彼の手を握って微笑みかけたのだった。
作品名:君と香りと記憶と 作家名:まつ