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My Dear Clown 01 【コミケ79 サンプル1】

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本を読み終えてしまったことで時間潰しをする手段がなくなってしまい、アリスはジョーカーを見下ろして途方に暮れた。やはり無理に起こしてしまうのは気が引ける。とはいえ足が痺れかけているのも事実だった。いや、実は既に麻痺しきっているのかもしれない。完全に感覚がなくなっているだけなのを痺れかけているのだと勘違いしている可能性は大いにある。ただ、確かめるためには立ち上がろうと試みなければならない。いずれにせよ現状では無理なことだ。
 読み終えた本を静かに地面に置き、アリスはジョーカーの寝顔をじっと眺めてみた。

(……黙っていれば、綺麗な顔してるのよね)

 長めの前髪と眼帯に隠されてはいるものの顔立ちが整っていることは明らかだ。まあ、この世界の役持ちは基本的に美形ばかりではある。『黙っていれば』という前提も曲者揃いの彼らには大体当て嵌まる。
 しかしその中でも特にジョーカーは容貌と中身が一致していないとアリスは思う。アリスの眼前に無防備に晒された寝顔は実に穏やかだ。優しげにも見える。どちらかと言うと女顔であるのもその印象に拍車をかけている。これが目を開くだけでがらりと変わるのだから、瞳が心証に与える影響がどれほど大きいのかよく分かる。何もかも見透かしているように鋭く、けれど踏み込んでくるほど強引ではなく。そんな目をしてジョーカーはアリスを見ている。不快ではない。
 もっとも、彼の場合は瞳だけでなく口調や表情のせいも多分にある。なまじ人型の状態では『ホワイトさん』に慣れていただけに、彼とは正反対の粗暴さはアリスを戸惑わせることも多い。ホワイトさんなら決して浮かべないだろう皮肉げな笑みもそうだ。
 そうやってじっくりとジョーカーの顔を見つめて分析しているうちに、とある疑問がアリスの中で頭を擡げてきた。取るに足らない些細なことで、けれど気になってしまうこと。

 眼帯の下の素顔はどうなっているのだろう?

 今に至るまで、ジョーカーは一度たりとてアリスの前で眼帯を外したことがない。眼帯といえばナイトメアもそうだが、彼の素顔は以前に夢の中で見たことがある。つまりアリスが素顔を拝んだことがないのはジョーカーだけだ。
 一度気になり始めてしまうともう平気ではいられない。むしろ今まで疑問に思わなかったことが不思議なほどだった。無駄にそわそわしてしまう。
 誰もいないことは分かっているのに、アリスは思わず周囲を見渡した。人の気配は全くしない。アリスとジョーカーと、その二人だけ。後は野兎などの小動物をちらほら見かけるくらいのことだ。
 誰も、アリスを、見ていない。
 自分でも気付かないうちにアリスは生唾を飲み込んでいた。そろり、と右手を伸ばしてジョーカーの眼帯に指先で触れる。もしジョーカーが目を覚ますようなら、当然そこで止めるつもりだった。しかしジョーカーは身動ぎするほどの変化すら見せなかった。熟睡しきっている。
 アリスはもう一度だけ周囲に視線を走らせ、眼帯の端を掴んでそっと持ち上げた。ジョーカーを起こさないようにするなら豪快に眼帯を外そうとするのはまずい。少し持ち上げて隙間から素顔を覗くくらいが限界だろう。慎重な手つきでようやく素顔が窺えそうなほど眼帯を浮かせることに成功し、アリスは上半身を屈めた。自然、アリスの顔をジョーカーの顔との距離が近づくことになる。下手をすれば吐息でジョーカーを刺激してしまうかもしれないとアリスは息を詰めた。
 そしてまさにその瞬間。茜色の瞳が見開かれた。