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名君と牙なしライオン/同人誌サンプル

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※サンプルはWEB用に改行を入れています





土方は、時折、皇帝を名乗る沖田の振る舞いを眺めながら、「あるいは向いているのかもしれない」などと考えることがある。


例えばこうして壇上に立ち、隊士たちをきれいに統べることと、独裁的とはいえ上手く彼らの指揮を取る指先。
ビロード張りの椅子から立ち上がり、深い青色のマントを纏うときの仕草についてや、澄んだ声で各々に命じてゆくさま。土方の眺めている先で、沖田は口を開き、隊士に向けて討ち入りの指示を下してゆく。


先ほどから、広間は張り詰めた緊張感に満ち満ちている。


「一番隊は先陣を切る」
「はい!」

威勢の良い声が呼応して、広間の空気はいっそうに冴え渡った。沖田の命令を潤滑に渡すべく、各隊の隊長たちは整列した隊士の間を忙しなく歩き回っている。組織こそべらぼうに大きくなったものの、根本的な体制は、かつてここが真選組であったころから変わっていないらしい。


「七番隊、三番隊は補佐に回れ」
「準備できています」
「よろしい。十番隊はビル周辺を包囲、鼠一匹たりとも逃がすな」


沖田がこつりと踏み出し、一段一段階段を下りるたびに、海の青色を乗せたようなマントが翻る。不意にその双眸が下に控えていた土方を見遣り、そうして、不機嫌そうな声音で名前を呼んだ。


「……土方」

直後、こちらを眺めていた目をきつく細める。
ひどく複雑な温度の、それでいて、明確に厄介なものを見るまなざしだった。沖田はその随分と大人びた、土方の知らない表情で何らかの思案をし、やがて無関心をありありと含んだ声で口にする。


「お前はここで待機していろ」
「承知しています」

土方は瞑目ののちに、沖田に向けてひとつ頭を下げる。それから顔を上げ、背筋を正すと、一振りの刀を差し出した。


「ご武運を、皇帝」
「――」


途端、沖田は感情の薄い目付きで土方を見上げる。びりびりとした敵意さえ感じられない、まったく退屈そうな視線なのだった。それを受け、土方は、二年前には決して持ち得なかった柔らかさで微笑む。


今度こそ、沖田からはどんな返答も返ってこなかった。一瞥さえすることなく、台座に据えてあるものを掴むのと変わらない無機質さで刀を受け取った。
それを左差しにし、土方に背を向けて、歩き始める背中を見送る。




(はー……)

いってらっしゃいませ皇帝閣下。深く礼をしたあと、土方は顔を顰め、あの背中には聞こえるはずのない舌打ちをひとつした。


(ったく、なァにが皇帝だあの馬鹿が)


その場にやれやれとしゃがみこみ、隊士を従える後姿に向けて親指を下へ突きつける。ここではこういった、沖田に対しての反乱ひとつで首が飛びかねないのだけれど、そんなものは知ったことではない。



土方が目を離した隙に、二年の月日が過ぎたのだという。
そんな馬鹿なと思いはするが、事実、あらゆるものが変わっているので認めざるを得ないのだ。近藤の不在、山崎の横暴、それから沖田の王さまごっこ。


解決策を見付けるまでは、状況に順応するのが得策だ。それが分かっているから大人しくしてはいるものの、我慢しがたいことは山ほどある。そのための苛立ちが腹の底で燻って、ぐらぐらと大きな気焔を吐いているのだ。


「くっそ、やってらんねー」


溜め息をつき、土方は思わず一人ごちる。
何もかもままならない。それにしても、実に煙草が吸いたかった。





名 君 と 牙 な し ラ イ オ ン




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【サンプル2】



「てめえ、そこで一体なにやってる」
「これですかィ?」

沖田は後ろの木をちろりと振り返ったあと、土方の方に向き直り、あのね、と口を開く。

「これはねィ、おまじないなんでさァ。総悟くんは健気なもんだから、こうやって、早く副長になれますようにって神さまにお願いしてるんです」
「阿呆か。お前それ、神は神でも死神的な何かだろうが」

いくら目を凝らしてみても、沖田が先ほどまで木槌で打っていたものは大きな藁人形にしか見えない。第一が、こんな夜更けにひっそりと行われる儀式など、どう転んだってろくでもない予感しかしない。

「いいからもう、さっさと戻れ。いま何時だと思ってんだ」

顔を顰めた土方が言うと、沖田はあからさまに渋々といった顔をし、けれども一応は従って藁人形を懐へ仕舞った。まるでサイズの合っていない下駄をからころ鳴らし、踏み石にそれを脱いで廊下へ上がってくる。
そうして、元の通り硝子戸を閉めた土方の右手を見遣り、あーあ、と口を開いた。


「土方さんの手がべとべとだ」


そんなことを言いながら、平気な様子で手を繋いでくるので眉根を寄せた。暖かくなった土方の手に、冷え切った沖田の指はまるで氷のようだ。

「冷てェ」

文句を言ってみても、うんと頷いただけで聞き入れる様子はない。それならと、歩き出さないままにその指を握り返してみた。沖田はぱちりとひとつ瞬きをし、少し意外そうな顔をして、繋がれた手と手を見る。


「この寒ィ日に、そんな薄着で外に出てんな」


窘めると顔を上げ、「こういう姿じゃなかったら、呪いに意味がないんでさァ」と答えた。




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【サンプル3】




「以上が今日の予定だ。土方、お前、後で各隊に通達しておけ」


椅子に掛け、相変わらずの無表情で書面を読み上げたあと、傍に控えた土方の方を見もせずに沖田は言った。分かりましたと微笑み、頭を下げて、土方は溜め息を喉の奥で飼い殺す。


(やれば出来るんだよな、こいつは)


あの頃だって、近藤の迷惑になるような場合や、土方が口を出してこない管轄内などでは真面目にしていた。一番隊の部下を可愛がり、テロリストや幕府の遣り方を相応に嫌い、そうして、ある意味で至極真っ当に隊長を勤めていたのだ。

(まあ、やりゃあ出来るって餓鬼の頃に周りが言い過ぎて、本当にやるべき時にしかやらなくなったとも言うけどな……)

頭が痛い所為で、止めたことになっているらしい煙草が物凄く吸いたくなった。それでもふと思い出し、土方は沖田に尋ねる。


「お出掛けの時間は何時ごろになさいますか」
「あ?」
(あ? じゃねーよ)

それでも、なるべく穏やかに重ねた。

「幕府の重役の方々と、今夜七時からお食事の予定が入っているようですが」


そんなことを言いながら、そういえばあれから二年後となったいま、将軍や松平、その娘などはどうなっているのか少しも読めないなと思った。沖田はといえばどうやらそんな予定もからりと忘れていたらしく、しかしてやはりどうでもよさそうにふうっと溜め息をついて、そのくちびるを開く。


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本文へ続く