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左手の真実【試し読み】

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サンプル1


■■■

時間を掛けて小さな小さなニンゲンの身体を扉に仕立て、人間界に降り立った日のことはよく覚えている。窮屈なトンネルを抜けて、初めて自分の目で見る、人間の世界。
間接的な干渉は時々していたが、異世界の空気を吸うのは初めてだった。
目の前にいる初めて見る黒い格好の人間は俺を見るなり攻撃的に向かってくる。苛々する、蛆虫のように小さく弱い人間のくせに。少しばかり力を持っているみたいだが、たかがニンゲン風情。少し苛つく気分のままに灼熱の息を吐きかければ、途端に身体は宙を舞い、壁にぶつかって落ちて、その動きは鈍った。ざまを見ろ、ニンゲンのくせに。俺は嗤った。このままなぶり殺してしまおう。小腹も空いているからちょうど良い。
《ダメヨ。ソウハサセナイ》
なんだ、この声は。――俺の中? 腹か…頭か? 何処だ、誰だ。俺に指図をするな。焦熱地獄に名高い俺様に命令するな。お前は、誰、ダレ――頭が、痛い。気持ち悪い。ダレダ!
《わたしが鬼の力を押さえているうちに早く》
俺の邪魔をするな! 俺は鬼だ。人間界で破壊・殺戮を……!
《早く、わたしごと鬼を封じなさい!》
黙れ! ニンゲンが…ニンゲンごとき、に……!!

――どこだ、ここは。せまい。とても狭くて、生暖かくて気持ち悪い。
……閉じ込められたのか? 俺は。
…眠い、酷く眠たい。出られないのか…眠い……。


どれぐらい時間が経ったのか判らない。つい今し方まで眠っていた俺には時間の感覚はない。ただ、器の力が弱まっているのにすぐ気がついた。
今ならここから出られる!
感情に身を任せ、そして人間の器を力で呑み込んでいく。何があったのか分からないが、器のことなど知ったことではない。とても弱くなっている抵抗をねじ伏せ、片腕までは割と簡単に取り戻した。もう少し、もうすぐだ!
そのとき外側から、誰かが俺の内側で眠る女を呼びやがった。くそ、内側から封じられてしまっては、俺にはどうしようもできない。こんな女、霊力が高いからと喰うんじゃなかった。あと少し、もう少しだったのに。

《きょうはわたしがぜんりょくで、おにのちからをおさえておいてあげる》
《みなこせんせい…》
《だからきょうは、ゆっくりおやすみなさい、ぬえのくん》

また振り出しに戻った。……しかたがない、時を待とう。最悪、器が朽ちるのを待つとしても、まあ100年はかかるまい。だが……退屈だな。ああ、思う存分暴れたい。手当たり次第に、そこいらのものを壊したい。
ふと、復元された封印の境目に小さな亀裂を見つけた。よし、これで外の様子が少しは見える。この退屈が紛れるならば何でもいい。
もしかしたらそのうちに解放の機会が訪れるかも知れない。