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ひろにか@二次小説寄り
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キミにお願い(Honoka side)

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 月での戦いは終わった。
 悔やまれるのは、ネルヴァルを取り逃がしてしまったことだ。
 もっと畳み掛けるべきだった。クサンチッペがいるとわかっていたら、そうしていたものを。


 今更言ったところでどうなるものでもないが・・・いや、それでも次の機会のための反省は無駄ではないはずだ。
 今後は秋葉だけではなく獅子堂家全体の協力を得られるようだが、気を引き締めるに越したことはない。
 50年前の戦いを体験した、最後のイグジステンズとして。



キミにお願い(Honoka side)



 獅子堂秋葉。
 獅子堂財団総帥の妹。五姉妹の三女。
 新たな『クイーン』。『宇宙をかける少女』。
 神楽の末裔。彼女の『願い』を受け継いだ者。


 把握していた情報は、色々有る。
 実際に秋葉と出会う前から、ワタシは彼女のことを知っていた。
 やがて仕えることになる主としてだけではなく、神楽の後継者がどんな人間なのか、知っておきたかったのだ。
 そうした事前の情報からも想像していたことだが・・・実際彼女を前にした時、浮かんだ思いはたったひとつ。


――ああ、こいつは神楽じゃない。


 姉妹5人の中で、顔は一番似ていると思う。
 けれど、雰囲気・・・とでもいうのだろうか、まとっている空気が神楽とはまるで違うのだ。
 それに、華々しく活躍する姉妹たちに劣等感を抱いているという話。これも神楽では考えられない。
 あの大胆不敵な彼女なら、そんなコンプレックスなど一笑に付すだろう(こちらの方が規格外であるのは否定しないが)。


 その感覚が正しかったのは、会った瞬間に確信した。
 力強く傲慢ですらあった神楽。その遺伝子を継いでいるのが信じられなくなるほど、秋葉はのん気で頼りなくて・・・何だか、使命を抜きにしても放って置けない。


 世話を焼きたくなるイモの気持ちも、なんとなくわかる。
 あんなふにゃふにゃは、目の届くところにいないとどうなってしまうか。


 迷子になって行き倒れそうな気がする。そしてきっと、致命的な事態になるまでそのことに気付かないのだ。
 そんな様が、自分でも不思議なほどの現実味を持って想像できてしまう。
 確かに神楽より幼いというのはあるのだが、彼女があと幾年か経ったところでああなるとはとても思えない。


 ただ、単なるダメ人間というわけではない、と思う。能力的にはひどく脆弱なこの少女だが、人間としての器はかなり大きいのではないだろうか。
 喧嘩しつつもレオパルドに付き合って、ここまで来てくれた。一度は絶交しかけたのに、戻ってきたのだ。


 普通の人間では、こうではいかないだろう。ICPに追いかけられるなど、危ない目に遭えば手を引くはずだ。
 黄金銃で撃ったワタシのことも、特に恨んではいないようである。もう少し、警戒されると思っていたのだが。


 神楽の持つ豪放磊落な気質とは異なるが、この娘はこの娘で大らかな人柄の持ち主なのだろう。
 ・・・先程の、彼女ならこうするだろうと思っての行動は、見事に外れたが。無傷のイモとは比較にならないくらい、あのミスターとやらにぼろぼろにされていた。


 まだこの少女は、つかめない。
 だが、そんなことを言ってはいられない。イグジステンズ唯一の生き残りであるワタシが、彼女をサポートするのだ。
 そして、神楽たちの仇を討つ。必ず、ネルヴァルを倒す。
 そのためなら、この命を失っても構いはしない。


 おそらくこのことを言えば、秋葉に止められるだろう。だから胸に仕舞っておく。そのつもりだ。
 これは、あの神楽が命がけでもできなかったことなのだ。それくらいの覚悟は必要だ。


 獅子堂家の支援があるとはいえ、この普通の少女にそんな大役が果たせるのかどうか・・・正直言って、わからない。
 だが出来る出来ないの問題ではなく、やらねばならないのだ。ワタシは、持てる力を尽くすだけだ。


 神楽と全く異なる普通の少女を、そんな運命に巻き込むことを心苦しく思う。
 けれどワタシは、どこか安堵してもいた。神楽の後継者が、彼女とは違う人間だったのがうれしかった。


 負けた人間と同じような人物が後を継ぐのは、その道を再びなぞるだけだ、などと考えていたわけではない。
 たとえ、勝利への道が険しくなるとしても。それでも、神楽は神楽しかいない。そうであってほしかった。
 彼女の代わりが、用意できるなんてイヤだったのだ。
 ワガママ、なのだろう。けれど、彼女はたった一人だ。ワタシにとって、神楽は彼女ただ一人。


 だから、秋葉。
 おまえも、おまえのままでいい。
 姉達のようにならなくていい。妹達のようにできなくていい。神楽の後継者だからと、気負う必要もない。


 おまえは、おまえの思うとおりにすればいい。
 その分、ワタシが助けよう。そうしてネルヴァルを、きっと倒してみせる。
 そのためなら、ワタシはどんな協力も惜しまないし、苦労だって厭わない。


 結局のところ、ネルヴァルとの戦いを強制することになってしまうことに変わりはないのだ。
 こんなことを言われたところで、迷惑なのに変わりはないのだろうが。


 ワタシには、何の礼もできない。それが心苦しくもある。普通の少女が喜ぶものなど、ワタシにはわからない。
 ひとつ思い浮かぶのは・・・ナポリタンくらいだろうか。
 レシピ通りに作っただけではマズイのだが。神楽はアレを美味しくできたのだし、ワタシも同じようにすれば・・・


 ・・・いや、確か秋葉はトマトが嫌いだった。
 すると、ナポリタンも食べられないのだろうか。
 だがトマト嫌いの人間には、味ではなく匂いや食感がダメだというタイプもいるらしい。そういう場合は、ナポリタンもミートソースも平気らしいが・・・


 秋葉は、どっちなのだろう。お礼の機会があるかどうかはわからないが、確かめておかなくては。
 一度、彼女にお願いをしてみよう。食事を一緒にとるというのは、相手のことを知るのにもうってつけだ。ちょうどいい。


――ナポリタンを食べにいかないか?