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津軽と俺たちの日常 2

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僕は今日も静雄さんのマンションのキッチンに、自前のエプロンをつけて立っている。もちろん夕飯をつくるために。

このあいだから数日おきに静雄さんの家で、一回では食べきれない量の料理の作っていっしょに食べて、残りを冷蔵庫に入れて帰るようになっていた。僕がご飯を作りに来ない日も、少しでもまともなご飯を食べてもらうために。
もちろん静雄さんの食生活が心配だったからだ。
何なんですかね、朝マック、昼ロ●テリア、夜モスときどき露西亜寿司って。
お寿司は、ちょっとうらやましいけど・・・。ああ、お寿司食べたいなぁ。

「帝人、帝人」

誰かが部屋につながるドアの方から近づいてきたことに気づいて顔を上げると、羽織を脱ぎ、たすき掛けをした津軽さんが真面目な顔をして立っていた。

「なんですか、津軽さん」
「何か手伝うことはあるか?」
「ありがとうございます。じゃあ、玉ねぎの皮をむいてください」
「了解した」
「むいた皮はこの紙袋に入れてくださいね」

足元に置いてあった紙袋を指さすと、津軽さんはうなずいて座りこんだ。どうやら紙袋の中で皮をむこうとしているらしい。津軽さんが手を動かすたびに紙袋のガサガサという音と、ぺりぺりと皮をはがしていく音が聞こえてくる。
自分でむくときは効率がいいから先に包丁で切っちゃうんだけど、真剣な表情がかわいいからそのままお願いすることにした。

津軽さんは、静雄さんのクローンの体に人工知能を埋めこんだ、いわゆるアンドロイドらしい。初めて会ったときはすごく驚いたけど、僕ももうずいぶん慣れたと思う。

それにしてもほんとうに外見はそっくりだ。長身でやせて見えるのに、適度に筋肉のついてるバランスのとれた体つき、なめらかだけど骨格のしっかりしたあごのライン、すっと通った鼻筋、やさしげに伏せられるまつげ・・・あ、けっこう長いんだなぁ、としっかり観察してしまっていることにハッと気がついて目をそらす。

いけないいけない、僕も他の野菜を準備しなくちゃ。
津軽さんが、一度手を止めて立ち上がり、水を張ったボウルに入れてある野菜をじっと見た。

「今日の夕飯は何だ?」
「ふふ、当ててみてください」

僕はボールから取り出したにんじんの皮をピーラーでむいていくことにした。こんな便利な道具を作った人はすごいなぁ、包丁でむくより断然早いし楽だし。しかもこんなに機能性に富んでて百円だもんなぁ、なんてことを考える。
津軽さんはまた座りこんで、たまねぎの皮をむき始めた。ペリペリとむきながら答える。

「んー・・・カレーか?」
「残念ながらハズレです。それは3日前に作りました」
「でも材料は同じ、だろう?」

津軽さんは不思議そうな顔をして、小首をかしげて僕を見上げる。

「ええ、材料は同じですけど今日は肉じゃがなんですよ。お肉とじゃがいも、にんじん、玉ねぎなんかを、お酒、お醤油、みりん、砂糖で味つけした煮物です。材料も同じ、作り方も途中まで同じなんですが、味つけが違うと全然違う料理になるんですよ」
「そうなのか」

いつの間にか紙袋の中からはギシギシという音が聞こえ始めていた。
もしかしなくても、明らかに白いところを向いている音だ。僕はにんじんとピーラーをその場に置いて、水にぬれた手のまま、とっさに津軽さんの手を紙袋ごとつかんだ。

「津軽さん、むきすぎ、むきすぎです」
「でもまだ皮がある」
「それでいいんです。玉ねぎは外側の茶色くなってるのだけむいたら、あとの白いところは食べられるんですよ」

何故だろう、僕は突然結婚もしてないのに子育てをしている気分になった。これって何か、お手伝いしてくれる子どもにお料理を教えてるお母さんみたいじゃないか。

「そうなのか」
「・・・そうなんです」

僕は小さなため息をひとつついた。そこで後ろからとつぜんハハハハッ、と笑い声が聞こえてきた。

「その調子じゃ、夜中に夕飯食べることになるんじゃねぇか?」

一瞬びくっとして、ひざをついた姿勢のまま振り返ると、静雄さんが壁にもたれ腕を組んで立っていた。この人は、ほんとうにこういうポーズが憎らしいくらい似合う。静雄さんの視線がじっと紙袋に注がれている。とっさに僕は紙袋から手をはなした。

「静雄、何かおもしろかったのか?」
「いつから見てたんですか、静雄さん」

僕と津軽さんの質問はほぼ同時だった。一歩、二歩、静雄さんが壁から背を離してこちらに近づいてくる。

「帝人が野菜を水につけて、ぼーっとしてたところからだ」
「それ最初からじゃないですか!」
「まぁいいじゃねぇか、減るもんじゃなし。ああ、津軽、帝人の手伝いはもういいだろ。それより、俺の肩もんでくれねぇか」

静雄さんがほんの一瞬僕のほうに視線を送り、すぐに背を向けて部屋のほうへ歩き始めた。顔は笑っていたけど、僕に向けられていた目は鋭くて、少し機嫌が悪いように見えた。僕の気のせいだといいんだけど。

「帝人、もう手伝いはいらないか?」
「そうですね、玉ねぎの皮はむいていただきましたし。助かりました。ありがとうございました」
「そうか」

津軽さんは、紙袋の中から小さく小さくなってしまった玉ねぎを取り出して僕の手のひらにちょこんと乗せ、ふわりと柔らかく笑った。それからゆっくりと立ち上がって部屋へ入っていった。
僕はまた小さくため息をつく。
それから、えいっと気合を入れて立ち上がり、いつもより少し急いで調理を進めた。その甲斐あってか、夜中に夕飯を食べることにはならずに済んだ。




夕食後、僕と静雄さんが洗い物をしているあいだに、津軽さんはたくさん覚えることがあって疲れたのかソファで眠ってしまっていた。
横を向いて寝ている津軽さんのやわらかい髪がひとすじ鼻のあたりにかかって、むずがゆそうだったので払ってあげようと手を伸ばすと、その手を静雄さんがきゅっとつかんだ。

「静雄さん?」
「あんまり触るな。かみつかれるぞ」

静雄さんはぱっと僕の手を離すと、寝室から持ってきたらしい毛布を津軽さんにそっと掛ける。ああ、どこに行ったんだろうと思ったら、毛布を取りに行ってたのか。

「ふふっ、そんな犬みたいに・・・」

静雄さんがじっと僕を見つめる。そう、かみついてくるような視線で。やっぱり少しだけ機嫌が悪いみたいだ。でも僕は視線をそらさない。合わせたままで、静雄さんの瞳の奥に語りかけるような気持ちで答える。

「わかりました」

静雄さんが僕のことばを目で味わうようにゆっくりまぶたを閉じ、もう一度ゆっくりとまぶたを開いた。そして今度は心から安心したような優しい目をして僕を見つめる。静雄さんのこの目がすごく好きだなぁと思ったら、なんだか嬉しくなって笑ってしまった。
二人並んでソファにもたれて座った。

「静雄さん、アンドロイドってご飯食べるんですねぇ」
「ああ、そうらしいな。こいつ、いっつものんびりしてやがるのに、俺よりよっぽど食うんだ」

静雄さんが振り返って津軽さんのほっぺを軽くつねった。
津軽さんは少し眉をひそめて「うー、も、食べられなっ・・・」とうめいた。

僕たちは目を見合わせ、声を殺して笑った。