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マゾヒスティック

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殺されたい、と望むようになったのは、一体いつからだろう。
 この関係が世間一般から見て色々な意味で酷いというのは分かっている。きっと、彼もそうだろう。近親相姦、同性愛、不倫、未成年との性行為。どれもこれも許されたもんじゃない。でも、俺はこの酷い関係に嵌っていて抜け出せないし(そもそも抜け出そうともしていないのだけれど)彼もきっと同じだ。同じであって欲しい。だって、俺だけがこんな関係に溺れてしまっているなんて、情けないにも程があるじゃないか。
 切っ掛けは最早曖昧だ。俺が酔っていたのかもしれないし、彼が酔っていたのかもしれない。或いは、俺が彼に詰め寄って言い放ったのかもしれない。「抱いてくれ」と。だとしたら俺は稀有な存在だろう。好きだとか愛してるだとか、そういったものを全て飛び越して言った一言が「抱いてくれ」。これは彼に、とかロマチックな意味ではなく、本来ならば恐れなくても良い方の(と言うとまた語弊がありそうだが)「殺される」じゃあないのか? 世間に、個人に、理不尽で理屈的で不可解でありながらも至極単純な世の中の仕組みに、俺は殺されるのだ。
「でも、ねえ、俺、殺されるならあんたが良い」
 嘘偽りのない言葉を吐いたのはいつぶりだろうか。彼にならいくらでも言えるのに、他の人となると急に口が動かなくなる。だから仕方なく芝居がかった台詞を吐く羽目になるのだけれど、その理由は何となくしか分からない。もしかしたら、何となくも分かっていないのかもしれないけれど。
「あんたに殺されたい。その後は好きにしてくれて構わないし、その前だって好きにしてくれて構わない。殺し方だって任せるよ」
 椅子の背に腕を乗せ、更にその腕に顎を乗せ、俺はのんびりと微笑んだ。こちらを見ようともしない彼をずっと眺めて、眺めて、幸せとはまたちょっと違う何かを噛み締める。幸せなんて、俺にはないんだろうから。
「ねえ、死姦に興味あるんじゃなかった? 確か、何かの動物は死姦するとかで、結構熱弁してたじゃないスか」
 俺で試してよ。言っても彼は聞かない。いっそ目の前で俺が死んでしまえば、なんて考えて止める。自分で死んだら天国に行けないんだって、昔どこかの牧師が言っていた。別に天国なんて信じちゃいないし、むしろ彼を心底愛している(と、思っている)今が正しく天国なんだから、別に信じる必要もないだろう。俺は結構酷い人間なのかもしれない。今に始まった事じゃあないが。
 ちらと俺を見た彼が、ゆっくり立ち上がってこちらに来る。その姿がなんとも言えず綺麗で、思わず見とれてしまった。纏う空気が、気配が、雰囲気が、全部気品に溢れているのだ。綺麗すぎて、呼吸まで忘れてしまいそうだった。
「これで、」
 大きな手が、気道をやわやわと塞ぐ。酸素が欠乏していくのが分かる。言い表しようのない痺れが全身を駆け巡り、まるでエクスタシーを迎えるかのように俺はひくりと痙攣した。
「……満足か?」
 直前で止められ、温かな手が遠ざかっていく。物足りない。けほりと咽ながらも、俺は快楽を見出していた。満足か、と聞いておきながら直前で止めるあたり、彼は俺の事を本気で見てはいないのだろう。溺れているくせに。大人は酷い。思いながらも、俺はその所謂「大人の酷さ」に嬲られたいと強く思っていた。


マゾヒスティック
(窮屈な箱の中に閉じ込められるような)
作品名:マゾヒスティック 作家名:はづき。