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Sleeping Time

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屋上へ続く階段は、何故か他の階と階を繋ぐ階段とは違う何かがある気がする。
青春漫画の定番というか。なにか始まる気がするというか。運命に出会える気がするというか。
とはいっても、実際屋上前の踊り場から眺めてみると、階段の脇には何が入っているのかよくわからない段ボールが乱雑に置かれていたり、がっちりと錠前で鍵がかかっている。
なんとも学生の夢が壊れる光景だ。まぁ、見慣れた風景なので今更そんなことは気にしない。
(もういるよね)
時刻はランチタイム。帝人も例にもれず本日のお弁当箱を抱え、昼休みを過ごすためここまでやってきた。
慣れた足取りで乱雑に置かれた段ボールをよけ、屋上へ続く扉の前に立つ。そして、扉を塞ぐカギに手をかけた。
「よいしょ、っと」
カチャン、と軽い音を外れた錠前を片手に持ち、扉を開ける。実はこの鍵が壊れていた。このことを知っているのは帝人を含め、数人だけだが。
扉を抜けた後、再び錠前を扉のドアノブ下の突起にかけ、軽く組み合わせる。傍から見れば鍵がかかっているように見せかけておけば、ゆっくりとした時間を過ごせるということは既に経験済みだ。
よし、と一息ついて振り返れば、綺麗に晴れた青空が見えた。気温はそれほど高くなく、ぽかぽかとした光が気持ちいい。
薄暗かった屋内から出て光を浴びたことで少し目がくらんだが、何度瞬きをすればすぐ慣れた。
開けた視界で辺りを真渡せば、真っ先に移った金色に口元を緩め、帝人はゆっくりと歩いて行った。

「あれ?」
金色―帝人の友人、平和島静雄は屋上の柵に寄りかかり気持ちよさそうに寝息を立てていた。
気配に敏感な彼には珍しく、帝人がこんなに近付いても起きないところをみると余程ぐっすり寝ているらしい。
静雄の側に牛乳パックや菓子パンの空き袋が落ちていることから推測すると、どうやら彼は既に昼食を終えてしまったようだ。思い返せば三限の終わり頃から臨也と追いかけっこをしていた気がするから、そのまま授業をさぼりここで日向ぼっこをしているうちに寝てしまった、というところだろうか。
はぁっと軽くため息を吐いてから、帝人は静雄の隣に座った。
二人の距離は三十センチほどしか離れていないが、以前静雄が起きる気配はない。
帝人もその距離を気にすることなく、当初の目的である弁当を広げた。高校生男子にとって、昼食は大切なエネルギー補給源だ。
一段目には白いご飯、二段目には卵焼きにプチトマト、レタス、唐揚げとオーソドックスなおかず。
一人暮らしの帝人が節約も兼ねて作っているお弁当だが、それ程レパートリーが多くないのでどうしても冷凍食品に頼ってしまう。いつか一カ月一万円生活のような節約料理が作れるようになりたいと心の片隅で思いながら、いただきますと弁当に箸をつけた。
小食の帝人にとって十分な量である弁当は、ゆっくり食べてもあっという間に無くなってしまう。一噛み三十回、なんてことを律儀に守って食べていても、隣の青年は未だ夢の中だ。
(静雄が食べたいって言ったんだけどな、卵焼き)
順調に食べていき、最後になったおかずを眺め、帝人はちらりと隣に視線を移してからハァッとまた一つため息を吐き弁当のふたをそのまま閉じた。
最後の一品が残ったままの弁当は隣に置き、ぐっと腕を天に上げ身体を伸ばした。
未だ隣の青年が起きる気配はない。

暫くボーっと空を眺めていたが、何もすることがなくて帝人は暇を持て余してしまう。携帯でメールでもチェックしようかと考えたが、なんだか今はそんな気分でもない。
寝息をたてて眠る静雄が少し憎らしくて、彼の髪に指を絡め軽く引っ張る。起きるかと思ったが、静雄は身じろぎひとつせず眠っている。
きらきら太陽光を反射する金髪、整っている顔立ち。帝人より少し高い位置にある顔とても綺麗だ。だがそれと同時に
「可愛いなぁ」
臨也に対して般若のように怒り狂ういつもの喧嘩人形が嘘のように、今の静雄の寝顔は幼い。
(いつもこういう顔してれば、もっと友達もできると思うんだけどな)
静雄が人並み外れた力を持ち、周りの人間に恐れられていることを帝人は知っている。
そして、静雄が優しく、人と触れ合うことを欲していることを帝人は知っている。

『俺は、こんなんだからな』

諦めたように、悲しそうに笑う彼の表情を思い出す。

「もうちょっと、僕を頼ってもいいんだよ」
起きるかな、と少し不安に思いながらも、そっと静雄の頭を帝人は撫でた。
染めている割にはあまり痛んでいない髪は、とても触り心地がいい。
何度か撫で続けていると、ううっと静雄が身じろぎした。起きたかな、頭にあてていた手を離し様子をうかがう。
眉間に皺を寄せ少し唸ったかと思うと、静雄はふっと口元を緩め笑った。そのまま再び寝息を立て始める。
突然の笑顔と、再び寝入った寝付きの良さに帝人は面食らっていたが、やがて堪え切れない笑いが溢れ、静雄を起こさないようにと必死に抑えながら笑い続けた。
「何の夢見てるんだか」
まだ静雄はにこやかに微笑んでいるように見え、余程気持ちよく寝ているらしい。
時計を見れば昼休みが終わるまであと十五分。
帝人は少し考えてから、「たまにはいいか」と小さく呟き、静雄にそっと寄りかかった。
体が触れた瞬間少し身じろいだが、結局すぴすぴと寝息を立て続ける静雄に苦笑をこぼし、帝人もゆっくり瞳を閉じた。


【 Sleeping Time 】



起きた静雄が至近距離で眠る帝人に硬直したり
弁当箱に残った最後の卵焼きを静雄に食べさせてあげたり
お約束のようにそこへ臨也が乱入してきたり
再び開始する追いかけっこにより結局みんなその後の授業をさぼるのは


また別の話。

作品名:Sleeping Time 作家名:セイカ