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Mis Pirata!!

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港町に船が近づくと、町の人間の対応は三つに別れる。
 一つ目、町から出ていた自分たちの船や商船の場合。彼らをあたたかく迎えるため、港へ集い船荷を下ろしたり食事や宴会の準備に奔走する。
 二つ目、海賊。町を襲われてはかなわない、向かえ打つために砲撃をし威嚇。必要とあらば町の自警団が出てきて本当に戦闘態勢に入る場合もある。
 三つ目、海軍、もしくは政府。何をしにくるのかが一番読めない彼らには目を光らせて、町のお偉方が出てくる。
 さて、今日の風は西北西、気温も湿度も申し分ない正真正銘の快晴だ。時折吹き付ける強い海風が厄介だが、いつもの通りと言われればその通り。
 港町の人々は汗水垂らして懸命に働き、ふと、顔を上げた。
「エストレージャか?」
 誰が最初に言ったのかは定かではない。その言葉はすぐに港中でつぶやかれ、互いに確かめ合う声がだんだんと大きくなり、最終的には叫び声となった。
「エストレージャだ!エストレージャ海賊団が来たぞ!」
 叫びながら男が駆けていった。恐怖由来の叫び声ではなく、声からは純粋な興奮のみが読みとれる。
 町の人々は俄かに活気づいた。そして足を絡ませるようにばたばた走っていくと、次々にエストレージャ、エストレージャ!と叫んでは、入港の準備をする。
 そう、ここには先に言った三つに当てはまらない四つ目の、強いて言えば「二つ目のイレギュラー」な対応があるのだ。
彼らエストレージャ海賊団はこの港町を拠点にしている海賊団なのである。
 ただし、イレギュラーなのはそれだけではなかった。
 さて、問題のエストレージャ海賊団は帆に風を受け、正しく順風満帆で港町のある入り江に滑り込んで来ていた。普通なら意気揚々としていればいいのだが、彼らは帰ってくるときが一番忙しない。
 副船長の怒鳴り声が辺りに響いた。
「旗を下げろ!」
 すると、海賊旗がするすると降りてくる。本来ならば帰港するときは凱旋であり、華々しく旗を掲げて入港するのが普通だ。しかし彼らは平然と、海賊の命である旗を、下ろした。
 甲板で望遠鏡を両手で持った狙撃手は、港をレンズの向こうに見ながらうわあと素っ頓狂な声を上げた。
「ヴェー、もう少しで入り江に入っちゃうよ!?」
「ほんとだわ。みんな早く着替えちゃいな~」
 シェフは苦笑いしながら言って甲板に突き出た扉から中をのぞき込む。舵を取っている銀髪の切り込み隊長に、あれ船長は?と尋ねた。
 彼は肩を竦めると、引きこもってるぜと笑う。
「あいつ、菊に会えないって昨日からずっとあの調子だ――バカだなマジで!」
「あちゃーそれは菊ちゃんに報告して喜んでもらわないとねえ」
 シェフは呑気に言って、舵の先の景色を見つめた。ガラス窓の先には彼らの生まれ故郷が広がって、手を振る人々が視認できるようになっていた。
 お前も着替えとけよとシェフは言って肩を叩き、切り込み隊長はおうと元気よく答えて舵を切った。彼の頭の上で小鳥がぴょこぴょこ跳ねている。
船が巨体を揺らして港へ入っていった。
 また外へ出ると、副船長が大きな海賊旗を畳んでいた。彼の周りには他にも、サーベルなど武器の類や宝物なんかが転がっている。以前どこかの海賊と戦って手に入れた品々だった。
それらを大きな箱に詰め、副船長はシェフを見た。額の汗を拭う。
「これで全部かよ?」
「たぶんね。意外と少ないもんだねえ」
「途中で売ったりもしたからな。アントーニョは?」
 尋ねられてさっき仕入れた情報をそのまま伝えると、副船長はものすごくいやそうな顔をした。
あの馬鹿が、と悪態を吐いて、既にかなり近付いている港を睨む。彼は既にどこからどう見ても一般人のような格好をしていた。
「あいつ着替えてるんだろうな?はしゃぐのはいいけどバレるぞちくしょー」
「多分昨日の夜から着替えて悶々としてんだろうよ」
「うぜー」
 半眼でため息を吐いた副船長は、操舵室へ向かった。舵を代わるつもりに違いない。
 とてとてと乾いた甲板を駆けてきた狙撃手は、そろそろ港に着く準備だよ~!と声を張り上げた。
 出てきた銀髪の彼も含め、三人で縄や碇を用意する。その間にも船は防波堤の横を通って港へと到着した。
碇を下ろすと重さで船が一瞬だけ揺れる。浅い海の底でごおんと重い音が鳴り響いた。
「お帰りなさい!」
 彼らに港で待ちかまえていた人々が手を振る。縄で船を港に繋げ、飛び降りてきた海賊団の面々を取り囲んだ。
「今回の航海はどうだった!?」
「またすごい品を取ってきたんだろうねえ!」
「ねえねえ、見せて見せてー!」
 人々はそう言いながら彼らの肩を叩いたり荷降ろしを手伝ったり忙しい。そして、口からは宝物の話など一切出さない。あくまで彼らを一つの商船として扱った。
 そう、この船のイレギュラーは、海賊船なのにある理由で商船のふりをしているということ。それを町の人々は皆知っていて、知らないのはたった一人であるということなのである。
 まあそもそも、その一人のために隠しているようなものなのだが。
 誰かが辺りを見回し、あれ、船長は?尋ねた。
 狙撃手と切り込み隊長とシェフは積み荷を降ろしながら顔を見合わせ、あー…と何ともいえない顔になった。
 と、その時だった。
 輝く太陽を背に船の舳先から影が舞った。軽々と船を飛び降りた彼は目を丸くする皆に何も言わず、背を向け走り出したのだ。
「あっ、アントーニョ兄ちゃん」
「てめーアントーニョ!荷物を下ろしてからに…!」
 船から身を乗り出した副船長の呼びかけも虚しく、もちろん着替えを済ませていた海賊船の船長はダッシュで町を駆け抜けていった。
 同時刻、町の高台で一人の青年が洗濯物を干していた。彼の名前は菊という。数年前にこの町に流れ着いたいわゆる余所者というやつだ。けれど彼は人当たりがよく優しくて真面目、すぐに皆と打ち解けた。町のお偉方にも認められてこの見晴らしのよい高台の一角に家を貰って生活している。
 菊はこの場所が好きだった。町の人が自分のために用意してくれた大切なところだったし、何より景色がいい。
強いて言えば、せっかくの港町なのに辺りの木々や岸壁のせいで、あまり船が入港してくるところが見えないのが玉にきず、だった。
 いい天気ですねえと嬉しく思いながら洗濯物を干していると、何やら声がして道の向こうに人影が見えた。
「あら…?」
 菊の手が止まる。豆粒のようだった影はすぐに大きくなって、彼が叫んでいる声も聞こえてきた。
「菊ー!」
「アントーニョさん!」


つづきは本にて。
作品名:Mis Pirata!! 作家名:碧@世の青