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Mis Pirata!!2 -約束の船編-

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はじめのぶぶんより。




 光る太陽、青い空、白い雲。海賊旗(ジョリー・ロジャー)をはためかせる海風は、航海の安全を保障してくれる程良いものだ。海賊にとっては凪いだ海ほど恐ろしいものはないから、ちょっとくらい風が強い日の方がありがたい。
 今日も今日とて、海賊船エストレージャ号は穏やかな航海を続けていた。海賊などというとやたらめったら戦っているイメージがあるが、いくら大海賊時代とはいえ広大な海でそうそう敵に出会うことはない。エストレージャは「約束の船」の教えを固く守っているから堅気の商船を襲うことも滅多にない。もっともそのような船の場合、遠くにエストレージャの海賊旗を見つけるや否や逃げてくれるのでありがたいのだが。
 戦うとすれば、それは相手が襲撃してきた場合である。商船に化けて近寄ってくることもあるし、単に名を上げようと目論んだりエストレージャの積み荷を奪おうとして大砲を撃ってきたりする輩はある程度いた。けれどそれも週に一回あればいいといった具合。海の広さを舐めてはいけない。
 ただここ最近は、結構襲撃の頻度が多かった。
「あー」
 メインマストの頂点にある見張り台に座っていた狙撃手は、望遠鏡が映したものに丸い目をぱちぱち瞬かせた。片手に持ったピザを口に運んで咀嚼しつつ、手についた粉をズボンで拭う。その間ももう片方の手が持った望遠鏡は微動だにしない。その体勢のまま後ろに手を持っていくと、掌大の管を引き寄せた。おしりの部分に紐のようなものがついているそれは、船全体に情報を伝達できる伝令管である。
「こちらフェリシアーノー。前方二時方向、眉毛海賊団が来たよ~ヴェ~」
 やたらのんびり告げた彼に、甲板で思い思いに余暇を過ごしていた船員たちは顔を上げ、水平線の向こうを眺める。目のいい副船長以外にその船影はとらえられず、彼以外はまた日光浴やら小鳥との追いかけっこやらに戻っていった。彼以外と言ってもサングラス装備で日光浴に勤しむ航海士と小鳥とガチバトルを繰り広げている切り込み隊長以外にいないのだが。
 副船長であるロヴィーノは船首に立って水平線を睨みつけると、またか、と苦々しく呟いた。それから船縁に隠してある管を取り出すと口に当てる。
「射程範囲に奴らが入り込んだらいつものやつ」
「了解であります~」
 フェリシアーノはへらへら笑って答え、メインマストから滑り降りてきた。操舵室へ向かうロヴィーノとすれ違うと、船首の真下にある彼の狙撃部屋へ向かう。ふんふんと鼻歌を歌う様子から彼の本気のなさが露呈していた。ロヴィーノは相手がその態度にキレるのではないかと思ったが、その時はその時である。
 ロヴィーノは船長室の真上にある操舵室に向かい、床に座って一つ欠伸をした。ふと見やると、普段は壁にかけてある当番制の航海日誌が落ちている。まったく誰だと思いつつも彼はそこまで潔癖ではなかった。
手を伸ばして拾いめくると、昨日は船長の当番だったらしい。
『○年△月×日、晴れ。今日も俺と菊はラブラブやったでー!』
「……」
 ロヴィーノは嘆息すると、背後へ日誌を放り投げた。ばさりと音を立てて日誌は沈黙する。
 立ち上がって天井から降りている伝令管を口に寄せた。若い副船長の声が甲板に轟く。
「そろそろだ。まあいつも通りだろうけど気は抜くなよこのやろー」
「アイアイサー」
 フェリシアーノと甲板にいた二人の船員、フランシスとギルベルトは軽い返事をし、配置につく。
 フランシスはサングラスをとって胸ポケットにしまい、手を額に水平にして近付いてくる海賊船を見る。
 そして思い切り苦笑した。
「いやあ、しかしアーサー君も懲りないねえ」
「ケセセセセ!馬鹿じゃねえのあいつ!」
「ヴェー、俺としてはトーニ兄ちゃんがやりたい放題やるのが収まるから、ちょくちょく来てくれるとうれしいなあ」
「おいフェリシアーノ、聞こえてるぞ」
 ロヴィーノの一応の叱責が甲板に投げかけられ、だってさーとフェリシアーノは頬を膨らませ操舵室を振り返った。
「トーニ兄ちゃん、菊が船に乗るようになってからぶっちゃけ腑抜けたもん!自分だけ菊とイチャイチャしてさーもー!」
「そうそう、菊ちゃんが可愛いのはお兄さんだって知ってるけど、毎日毎日じゃ菊ちゃんの身体もたないんじゃないのかねえ」
「つーか爆発しろ!なあ小鳥…」
 ギルベルトが小鳥と何やら真剣に会話しはじめたのを無視し、ロヴィーノは別の伝令管を手に取った。この船には無数の伝令管が設置されており、使う管によって伝令できる範囲を変えられる。今のは甲板だけを対象にしていた。
 今度の管は二層下、船員のベッドルームの一つに繋がる管である。そこでは想像通りのことが繰り広げられているに違いないので、ロヴィーノは必要最低限のことだけ言ってすぐに管を切ろうとした。
「こちら操舵室。前方二時方向からカークランド海賊団。これよりいつも通り威嚇砲撃を――」
「わ、あ、アントーニョさ、ちょっと…!」
「えーからえーから」
「よくないですっ!い、今何時だと思って、きゃっ…!」


つづきは本にて。