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新宿のオリハラさん 1

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とあるサイトの
 とある時間の
 とあるチャットルームにて

 
 田中太郎「そういえば今日学校に行く途中、平和島静雄さん
      に会ったんですよ」

 罪歌  「わたしもあいました」

 セットン「最近、毎日話題になりますね。平和島さん。
      今日も何かあったんですか?」


 「またシズちゃんの話かよ!よく飽きないね!!」

 
 ツッコミをしながらこのチャットの管理人はパソコンの
 画面に向かって盛大に叫ぶ。

 「・・・・・・やめなさいよ。見苦しい」

 見かねた波江が、作業をしながら口を挟む。

 「だってさぁ、ここ2週間くらいずっとシズちゃんの話しか
  してないんだよ!?嫌いな奴の話を聞かなきゃならないのが
  どれだけウザイか君には分からないだろうね」

 頬杖をついて臨也は愚痴と八つ当たりを同時に言い放った。
 失礼ね、と波江が受け答える。

 「私は嫌いで今にもこの世から消し去りたい子の話はいつも
  聞かされてるわ。まぁ、誠二の事が知りたいだけなのだけど。
  それより、嫌いな奴なら情報収集くらいに思えばいいんじゃない?」

 それを聞いた臨也は、あまり気乗りしていないようだった。

 「調べたい事は俺が調べるからいいんだよ。全く、毎日毎日
  喧嘩ばっかりして・・・シズチャンの行動は全然理解出来ない」
 
 そう言いながら目の前で次々と流れる平和島静雄の情報を
 一文字も見落とすまいとマウスを忙しなく動かしている。

 「私には貴方の行動が理解出来ない・・・理解したいとも思わないけど」

 その様子を見て波江は突然襲ってきた頭痛に悩ませれていた。



 田中太郎「甘楽さん、今日あまり話してませんね。
      どうしたんですか?」

 急に自分の名前を呼ばれて、ようやく自分がチャットをしている
 事に気付く。マウスから手を離し画面を見ながらキーボードを叩く。

 
 甘楽「なんでもありませんよぉ~☆ちょっとドラマ見てたんですww
    この間始まった恋愛ドラマなんですけど、すっごく面白くて」

 セットン「あぁ、聖辺ルリちゃんが出てるドラマですね」

 田中太郎「へぇ、そうだったんですか。僕も今度チェックしておきますね」

 甘楽「はい、是非是非☆ それより、なんで最近平和島さんの
    話題ばっかりなんですか??」


 やっぱりこの話し方は疲れるな、と少し後悔しながら
 単刀直入に話をすすめた。


 罪歌「わたしもたまにみています」

 
 少し遅れて罪歌が返事をする。せめて漢字変換くらい出来るようになって
 欲しいんだけど。


 田中太郎「そういえばそうですね(笑)よく見かけるもので。
      喧嘩している所を目撃したら、不謹慎かもしれないですけど
      なんかテンション上がっちゃって・・・」

 セットン「あぁ、分かる気がします。特撮もの見てるみたいな感覚ですよね」



 「なんだぁ。ただの非日常への憧れだったのか」
 
 興ざめも良いところだ、と臨也はアクビをする。



 甘楽「では、そろそろドラマ続き見るんで落ちます♪」

 田中太郎「了解しました。ではノシ」

 セットン「またチャットしましょう」



 罪歌の返事が来る前に、直接パソコンの電源を落とす。
 波江は食事の準備に取り掛かっていた。

 「今日の晩御飯なんなの?」

 顔も見ないで臨也は話しかけた。

 「シチューのつもりだけど」

 そっけない返事と共に、ベリベリとパッケージを破る音が聞こえる。

 「レトルト嫌いって言ったじゃん!・・・今日、外で食べてくる」

 いじけた子供のように言った後、臨也は部屋から出て行く。

 「・・・面倒な人」

 波江はため息をつきながらその背中を見送った。


 




 




 数分後、臨也は真っ直ぐ露西亜寿司に向かっていた。

 夜の池袋は、人で溢れ返っていて自然とスキップしてしまう。

 携帯で会話しながら、頭を下げる真面目そうなサラリーマン

 髪を染め、集団で集まっているヤンキー

 好きな者を追いかけるストーカー

 みんなみんな、愛している!!!

 悶えそうになりながら、人間観察を繰り返す。

 しかし、目的地は目の前だったので、割愛することにした。


 「いらっしゃーい!おぉ、イザヤ!!」

 中に入るとサイモンが騒々しく迎える。

 「シズオもいらっしゃーい!!!」

       ?!

 勢いよく振り返ると、最近チャットで引っ張りダコだった
 平和島静雄が不機嫌そうに立っていた。

 「なんで手前がここにいるんだ?あ゛ぁ゛?!」

 身長差のため、見下ろされながら威嚇される。

 「ただお寿司食べに来ただけだよ。悪いの?」

 イザとなったら店内では逃げられないので、出来るだけ
 挑発しないように返事をした。

 「悪くねぇな」

 予想外の言葉を口にして、静雄はカウンターに向かった。

 「え?怒らないの??」

 思わず自分から話かけてしまった。とっさに相手の服の裾を掴む。

 「なんだよ。怒って欲しいのか?」

 静雄はまるでいつもとは打って変わり、笑顔を見せた。
 端整な顔立ちに、不本意ながら見とれてしまう。

 「俺は手前が悪さしなきゃ怒らねぇよ。・・・そろそろ離せ」

 静雄は目線を手元にやる。追ってみると、ガッチリと裾を
 掴んだ自分の手が見えた。

 「こ、これは・・・事故!事故だよ!!」

 思いっきり動揺しながら臨也はカウンター席に座る。
 顔の熱を手のひらで必死に吸い取る。

 「事故・・・ね。その割には顔赤いんじゃねぇの」

 静雄は臨也の隣に腰を落とし、ひょい、と顔を覗き込む。

 「赤くないよ!」

 恥ずかしくて涙目になりながら反論する。
 ってか、こんなにシズちゃんって格好良かったっけ?

 「赤?おぉ!!マグロの赤身いいね!今日入ったばかりの
  捕れたて新鮮デリシャスよーっ」

 サイモンは無粋にも勝手にマグロを持ってこようとする。

 「サイモン!俺、大トロがいい!!」

 思わず立ち上がって注文を変更した。

 「了解!大将ーっ、マグロと大トロよろしく!!」

 遠くの方で聞こえてくる声を耳にして席に着く。

 「変わってねーんだな」

 静雄が臨也の方をまじまじと見つめる。

 「好みの事?そう簡単に飽きないよ。好きなものなんて」

 こっちの方を見ているのは気付いていたので、そっぽを向いた。

 「だよな。俺もそうだぜ」

 何が、という意味で静雄を見る。

 「手前の事、高校の時から見てるけど全然飽きねぇ」

 静雄は恥ずかしがる素振りも見せず、サラッと言った。

 「ななな何言ってんのシズちゃん!・・・意味分かんないしっ」

 思わず臨也は目を隠す。

 「へいお待ち!」

 ナイスタイミングというように、目の前に寿司が置かれる。

 「美味そうだな。サイモン、追加で卵もくれ」

 静雄の興味は食にいってしまったようで、黙々と寿司を口に運んでいる。
 その様子をみて、臨也は自分の大好物である大トロに向かって、

 「馬鹿」