曖昧な愛
あんたは全部。
そう言いかけて言葉を飲み込む。代わりに、日に当たってないせいで気持ち悪いくらいに白い肌に手を這わす。予想に反して、それはひどく温かかった。
「何を戯けた事を……」
頬、顎、喉、鎖骨、そして引っ掛かるシャツを爪でカリカリと引っ掻きながら、ぼんやりした答えを返そうか悩む。どうせ言わなくったって勝手に読むくせに、とは思いつつ、その曖昧な何かを言葉にしていく。
「例えば、」ギシ、とベッドが軋んだ。
「その、細っこい体つき。そのまっさらな心。その無知な表情。その危うい艶やかさ。そういった全部が綺麗なンスよ」
ハハッ、と軽く笑う声がまた何とも言えず綺麗だった。
「それなら君もじゃあないか。その逞しい体つき。その寛大な心。その全てを知り尽くしたような表情。その溢れんばかりの艶めかしさ」
白くて細い指が俺の唇をそっと撫でて、その冷たさに驚いた。
「俺は……」
「『俺はそんな男じゃあない』か? 案外人間とはそういったものだ」
クックッと短く笑い、男は起き上がった。そうだ、俺は何を思ったのか(というよりは、理性を失っていたのか)この男をベッドに押し倒していたんだった。
さて。男は言う。
「セックスをしたいのなら、まずはキスから始めてもらえると嬉しいのだが」
曖昧な愛
(「じゃあ、遠慮なく」)