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寸劇キマイラ

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(開幕、但しベルはなく淡々と幕のみ上がる、拍手は不要と短い前置き。)







悲劇と喜劇の峻別について考えてみたのですけれど。
興味深いな、拝聴しよう。
持たざる者から持てる者への転化が喜劇、逆に持てる者が持たざる者へと転化するのが悲劇、如何です。
転化が起こらない場合は、例えば持てる者が持てる者のままであるとき。
笑劇でしょうね、あまり笑えませんが。
逆に持たざる者が持たざる者のままで終わる筋書きは。
…悲劇、と呼ぶべきなのでは、一応。
ふぅん、4×4のマトリクスが埋まったな、これで。
完璧主義者。
という訳でもない。
謎かけと謎解きがお好きなのでしたね。
そうその通り、そして今一番の謎はお前の右手の、実に不穏当なその得物なんだが。
ああこれ、お気になさらず単なる小道具です。
短剣。
ええ小刀。
…何をなさるお積もりで。
(アーサーさん形式上その口調は混乱のもと。)
(あ、すまん、)ええと、改めて…小道具なのでもちろん刃は。
この通り、引っ込みま、せん。
……。
真物の短剣、ですよ、私たちの悲劇に似合いの。
何、これ悲劇だったのか。
僭越ながら私が主役ならば持たざる者が無に帰す事例4、貴方が主役なら事例2の持てる者が持たざる者へ、
よもつくにへ一名さまご案内、の絵に描いたようなまさに悲劇、ではと愚考しておりますが。
オレが死ぬかお前が死ぬか、な訳か、その短剣で。
概ね、しかし私は時が来れば小道具などなくとも自然と泡と消えるのですが。
持たざる者、お前が。
そう、そうです、何も持たぬ私は、この身一つで這い上がってきたのですよ、貴方のいる世界まで、
親しく契りを交さんがために、旧きを棄て新しきに身を窶し、さながら鱗を剥ぎ陸に臨んだ魚のように。
泡になるとは、なにゆえに。
海から上がったものは海に還る定め、高望みの罰が下るなど、まあ良くある話です。
それが嫌ならそいつで…。
刺すのは心の臓か肝と相場が決まっていますが、悲劇的にはやはり前者の方がそれらしく、そしてきずぐちから溢れる貴方の、
蒼褪めて冷たい血で癒すことが出来れば重畳。
何を。
…脚を、脚の痛みを。
すまん、傷むようなことは、その、脚には、した記憶がない、んだが。
貴方が可愛がってくださったこの脚、ひどく痛むのですよ、一息に駆けてきましたので、
身の丈に合わぬ事をしましたので、ほら、こんなに、夜毎に熱をもって。
このふくらはぎの辺りが。
は、う、…。
触り心地いいんだよな、あと足首。
ん、もう…。
で、どんな風に痛む。
針の筵を歩むよう、あるいは刃の上を渡るよう。
この辺り、とか。
あ、ぅ…あ、なぜ、こんなにあたたかいのですか、貴方の手。
心が冷たいから、という噂。
貴方の血も、手と同じように温かいのなら、私は、あ…は。
どうする。
この体は苦い罪業の枷から逃れることは出来ない、きっと……であれば貫くしかないでしょう、
左胸を、醜悪な心臓を自ら。
その短剣で。
銀はそもそも異形を屠る金属…胸よりも喉を裂く方が悲劇的でしょうか。
独りで。
ええ、どうせあと少し、朝が来れば融けて消えて散って泡沫、の身。
おまえひとりで。
だって、…だって、そうでしょう、この通り私はサイレンの声など持っておりません、
…貴方のこころ、魂までも奪って、共に波の下へゆくことは、叶わない、の、ですよ。
ペシミスト。
残念ながら私が楽天家では話が成立しません。
試してみるか。
何をです、というか何をなさって…。
お前自身の声で。
ふ、あ、……。
俺の心だとか魂だとか、が、奪えないものか。
そこ指で、…弄ら、っ、あぁっ…。
鱗の痕。
ええ、そう…っあ。
鱗、剥ぐのってどんな感じ。
…それ、言わなければなりませんか。
興味深いので、拝聴したい。
人で言う、破瓜、の感覚、……あんなきっつい体験一生一回で充分だのに貴方ときたら。
えーと、心当たりはあるが言葉としてはあれも破瓜でいいのか。
さて、実際のところは寡聞にして存じ上げません。
でも、割りと痛いの好きだろ。
ちょ、曲解は止めてください、仮に苦痛であっても泣きごと言わずに歯を食いしばって堪えるのが美徳なのです。
もういっかい、堪えてみる。
またの機会に善処します。
じゃあ痛くなけりゃ良いか。
そういう問題では…や、あっ…。
ほら。
…ん、んぅ。
口を閉ざすな、もっと声、出してみろって。
あ、あ、あ、…っ。
俺のサイレン。
く、…う、あ。
一緒に連れてけよ、いいところまで。
っ、は…あ、ですが……しかしっ。
ああ、その物騒な小道具は、そうだな、上手の方に放っとけ。
あうぅ、は…は…、え。
どうせオチは暗転型大団円だろ、ここまできたら、ゼイリブドハッピィリィエヴァーアフター。
え、…え、と、ふ、伏線、というにはおこがましい設定の回収がですね…。
お、まだ暗転はしない…明るい方が好きだったっけお前。
つくづく…っ、揚げ足とるのお好きですね。
あし、だと…。
ひ、あっ、あぁっ。
膝裏か内腿とどこが弱かった……あ、そうだすまん、痛むんだっけ。
ふ、あ、あ、もう、…もういたいのもなにも良くわからな…、あ、でも、夜、明けが。
来ると不安で泣きそうだったりするのか。
ん、は…な、きませんよ、私は、さかなだから。
瞼、あるのにな。
…ふ、っ、いま、何と。
ああ大丈夫、いいから、怖いなら目、つぶっとけ。
…んっ。朝が来る前に。
ア、ーサー。
俺がお前を。

さ、ん。







(予告通りラストは暗転、幕はなし。ええでは只今より休憩を2〜3時間…)
作品名:寸劇キマイラ 作家名:みつき