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降りしきる雪のかわりに

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「むこうは今、どんな様子でしょうか」

薄暗い雲の立ちこめる空を見上げながらの言葉が指す「むこう」とは、この時期なら当たり前に雪のちらつく彼の故郷のことだろう。
自分たちの国と違って、こちらは緯度の違いか、なかなか雪が降らない。
山間の地方や、もっと北に上れば様子が違うようだが、少なくとも自分たちがいるここにはなかなか降らないものらしい。
少しちらついただけで、雪だ雪だと大騒ぎしていた開催国地元のチームのメンバーを見て、いったい何を騒いでいるものかと奇異の目を向けたのはついこの間のこと。
南国から来たチームは初めて目にするらしいものにはしゃいだ後、当然のこと寒さに震え上がっていたし、北欧のチームはだからなんだという顔をしていた。
彼らにとっては自分たちよりよほど日常茶飯事の気象状態なのだから。
国により土地により、様々な反応をもたらすこの雪というものが、シュミットにとってはまあ、たいして珍しい部類のものには入らない。
当たり前の景色すぎて、今までは降ったからどう、降らないからどうのといちいち考えたこともなかったけれど、

「……自分にとってあるはずのものがないというのは、なんだかちょっと淋しいものなんですね」

エーリッヒにそう言われて、シュミットも空を見上げる。
延々と続く薄灰色の雲は、しかしまだまだ雪を降らせるほどには厚みがない。
数日後辺りには寒波到来だという天気予報を聞いたから、降るとしたらもう少し後になるのだろうか。
雪か、と考える。
エーリッヒにつられて雪に思いを馳せてはみるが、はたして雪が降ったら自分は喜ぶのだろうか。
嬉しいだとか懐かしいだとか、そんなことを思うのだろうか。

……いや、ない、か。

雪は雪だ。
単なる天候のひとつに過ぎず、エーリッヒの故郷では降りしきる当たり前の冬の景色だとしても、自分にはそれ以上でも以下でもない。
降れば降ったで、ああ、降ったかのか、くらいにしか思わない、多分。

ただ、

ちらりと隣に視線を送る。
相変わらず空を見上げるエーリッヒは、目に映る空から遠い別の場所に思いを馳せて、目を細めている。
ぐるりと首に巻いたマフラーから伸びる首筋の先の顎が、くいと上向いていて、ゆっくりと吐く息が虚空に白く広がって、風に浚われて消えていくのが、どこか完成された一枚の絵のように見えた。

ただ、隣のこの世で一番大切に想う相手がそれで喜ぶのなら、

「……降らせてやろうか」

「雪をですか?」

どうやって、と、半ば笑いを含んだ問いは、シュミットの無理を承知のときの声音だ。
空に独占されていた視線がこちらを向いて、微笑んだ。

「まあ、さすがの俺でも雪は無理だ」

「そうですね」

じゃあ、何を降らせるんですか。
首を傾げたエーリッヒに、一歩近付く。
くいと腕を引いて傍のベンチを示すと、察してエーリッヒは首を傾げつつ腰を下ろした。
エーリッヒを座らせて、自分はその前に立つ。
普段、自分より少しだけ高い目線がすっかり下にいって、見下ろす姿勢になる。

「シュミット?」

見上げてくる角度のエーリッヒの瞳が好きだ、と、思う。
もちろんどんなものでもエーリッヒでありさえすれば間違いなく自分の好みだと言いきれるのだが、光を受けて一番綺麗に輝いて見えるのは、この角度だとシュミットは思っている。
両肩にそっと手のひらを置くと、外気に冷えた固い感触。
お互い気候的な厳しい寒さには慣れている身だが、それでも温めてやりたい、と、思う。
はらりと肩から落ちたマフラーを巻き直してやると、白い息を吐き出しながらエーリッヒが笑った。
一瞬だけ白に霞んだ笑顔が愛しい。
その愛しい顔に、そっと唇を落とす。



鼻先に、

額に、

瞼に、

耳に、

髪に、



「何を降らせてくれてるんですか」

くすぐったそうに目を閉じて、ふふ、と笑いながらの問いに、シュミットは短く答える。

「雪の代わりだ」

「……すぐにでも、とけてしまいそうです」

「なら、とけないくらいのを降らせてやる」



頬に、

そして、唇に。



「………今度は積もって埋もれてしまいそうですね」

「最高だろう?」

俺に埋もれていられるなんて、と口の端を持ち上げて笑う。
エーリッヒがふ、と白い息を吐き出して、

「最高、ですね」

それこそ最高だろうという笑顔で笑ったから、シュミットも最大限の笑顔を返した。
そしてもう一度、ゆっくりと唇を寄せる。
目を閉じたエーリッヒがとても、とても幸せそうな顔をして、自分の方が幸福に埋もれてしまいそうだと思う。
言わないけれど、ひっそりと。

「エーリッヒ」

白い吐息が絡んで、混じって、空に消えるのを頬で感じながら、シュミットは唇を重ねた。
エーリッヒの腕が伸びる。
絡んだシュミットの首筋から、冷えた体温が伝わってきた。
温めてやりたい、と、再び思う。
埋もれればいい、お互いが、お互いに。
触れた箇所から行き来するのは、温もりと、吐息と、それからこの上ない幸福感。

雪は降らずとも、埋もれればいい。

お互いが、お互いに。

それだけでいい。





 * Merry Xmas!! *

2010.12.24