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【冬コミ新刊サンプル】そうして、彼は【静帝】

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(略)


 そんな静雄の予感は当たらずとも遠からずというところだった。その面倒ごとは直接ではなく、間接的にもたらされた。二時間目が終わった休み時間に新羅の下へやってきた臨也がミカドに目を止めて声を掛けたからだ。

「あれえ?君、こないだ俺のことストーカーしてた子じゃないか」

 そんな風に声をかけられた転校生の顔がピシリと固まったのを教室にいる誰もが見ていた。もちろん静雄も。臨也の声はよく通るがゆえに教室内は一瞬にして静まり返る。
 ある者は臨也の言葉の真偽に興味を持ったし、ある者は転校早々、来良学園の厄介者に目をつけられてしまった少年へ哀れみの視線を向けていた。
 その誰もが極力、臨也とは関わり合いにはなりたくないと思っていたから、臨也が転校生に絡んでも見てみぬふりをしたことだけは一致していた。
 静雄にしてみれば、転校生に声をかけた臨也の声色は胸がムカつくほどにわざとらしく聞こえる。彼の言葉をそのまま鵜呑みにするなど馬鹿らしいと静雄は知っていた。
 だが、そんな静雄の考えとは裏腹に、新羅はにこにこと笑顔を貼り付けてミカドと臨也のところまで歩いて行った。

「田中君は臨也のストーカーなの?」

 もしかして転校して来たのもそのため?とまったく笑えない冗談を言いながら、ただ一人、新羅だけが教室の静寂など無いかのように明るい声でしゃべっている。空気を読まない新羅の発言に、ミカドは思い切り青ざめた表情で首を大きく振った。
 静雄はそんな三人の様子を自分の席からじっと見ていた。見ようと思って見ていたわけじゃない。できるなら臨也など視界の隅に置いておきたくなかった。
 けれど目をつむったからといって臨也の存在がこの世から消えてなくなるわけでもないし、耳を塞いだからといってその声を完全に遮断できるわけでもない。何もしなければこの疎ましい時間が休み時間中ずっと続くのかと思うと、静雄の身体はいつの間にか勝手にゆらりと動いていた。
 どんどん顔色の悪くなっていくミカドの様子など気にもとめず、臨也と一緒になって根掘り葉掘り質問していた新羅は、静雄の舌打ちが聞こえたのか後方を振り返った。一瞬前までニコニコと笑顔だったその顔は、自分の真後ろに立つ静雄の表情を見てひきつった笑いに変わった。
 静雄が新羅の腕に手を置いて、その身体を軽く押しのけるような動きをしただけで、新羅は教室の後方に思い切り吹き飛ばされた。金属片がへこむ大きな音に教室内から悲鳴が上がる。ロッカーに衝突してそのまま床に沈み込んだ新羅は、気絶はしていなかったが、背中をしたたかに打ちつけて声も出せず悶絶している。

「臨也よお、人のクラスで好き勝手、騒ぐんじゃねえ……」

 今すぐ出て行けという静雄の低い声に、臨也が表情を消して、顔を歪める。だがそれも一瞬のことですぐに笑顔に戻った。


(略)