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【冬コミ新刊サンプル】静帝アンソロ【静帝】

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 その日、帝人は自室で一人、途方に暮れていた。

「さ、さむーいっ!」

 年の瀬も迫った十二月。部屋は室内であるはずなのに息が白くなるほど冷え込んでいる。今朝になって突然、電気ストーブが壊れたのだ。
 朝、店の開店と同時に電気屋に駆け込んで、新しい暖房器具を手に入れたものの、その重さに負けて自分で家に運ぶことを諦めてしまった。
 おかげで夕方を過ぎても一向に部屋に暖かさは戻ってこない。今日中に届けるからと言われてストーブの配達を頼んだにもかかわらず、だ。

「このまま寝たら死んじゃうかな……」

 日も落ちて、ますます気温は下がってくる。帝人はなけなしのジャケットと使い古いしてぺったんこになった布団をかぶって、台所の片隅で一人ぶるぶると身体を震わせていた。
 四畳半一間のアパートは壁も薄ければ、断熱材なんかもちろん入っているわけがない。熱はこもるどころかどんどん奪われていく部屋の中で、帝人にできることと言えば薬缶を火にかけることくらいだった。それも半ば焼け石に水と思いながら。
 先程から何度も電気屋に電話しているが、なぜかいつも通話中で一向に繋がることはない。購入したストーブを取りに行くなり、他の暖房器具を買いに行くなり、さっさと別の手段を講じれば良かったのだ。律義に配達を待って無為に過ごした時間に諦めを感じつつも、帝人は震える指先で何度目かリダイヤルのボタンを押した。
 またどうせ今度もかからないんだろうと、溜息をつきながら受話器を耳にあてると、初めてコール音が聞こえてきた。今度は繋がるかもしれないとにわかに希望が見えてくる。三コール目で誰かが受話器を取った音に気持ちがはやって、帝人は自ら名乗ることもなく用件を喋り出してしまった。

「もしもしっ?!あ、あの今朝、そちらで電気ストーブを購入したんですけど……」
「はい、こちら、『アルケニー』。何かご用でしょうか?」

 受話器から聞こえて来たのは若い男の声だ。勢いよく話し出した自分相手にでも、淡々と応答する声に毒気を抜かれて、それ以上、一方的にまくしたてる気を殺がれてしまった。
 一度通じれば切られることもないだろうと、気を取り直して帝人はゆっくりと事情を話し出した。

「え、ええ、そうです、用事です。だから……」
「わかりました。五分で参りますので、少々お待ちください」
「はあ?いや、配達して下さるなら良いんですけど……えーと、いま、うちの近くまで来てるってことですか?」

 最後まで確認する前に通話はぷつっと切れてしまった。

「え?ええっ?!もうっ、どんだけせっかちなんだよ……」

 一瞬前の自分の安心は一体なんだったのか。もう一回とリダイヤルしても、今度はぷー、ぷー、ぷーっと通話中の音が無情に響く。本当にあと五分でストーブがやって来るとは到底思えなかった。


(後略)