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如月ヒメリ
如月ヒメリ
novelistID. 13058
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のど飴とほわいとくりすます

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白白白、一面の、白。
灰色の空と雪に彩られた世界は、現実味が薄れて見えた。
音さえも吸い込む雪のせいで、あたりはひっそりとしている。

「ねぇ、室ちん。」
白の世界の外側、部室の中で紫原は問いかけた。しかし視線の先は窓の外。
狭い部室には紫原を含め二人しかいない。問いかけられたもう一人―氷室は、読んでいた雑誌から顔を上げた。一方紫原は小さな窓のほうに目を向けているままで、氷室のほうを見ようとはしていない。
「どうした?敦。」
そのことに関しては気にせずに返す氷室。
すると紫原は、子供じみた無邪気な声で言葉を吐き出した。
「雪ってさ、なーんかおいしそうだよねー?」
あまりに子供じみた、無知にもほどがある言葉を。
唐突に何を言い出すのかと眉をひそめると、なんていうかさー、と紫原は続ける。
「オレ前まで都会に住んでたから、こんないっぱいの雪見んの初めてなんだよね。」
んで、改めて見たらさー、なんかふわふわしておいしそうだなって。
生き生きとそんなことを言い出す紫原を見て、氷室は思わず吹き出してしまいそうになった。
小学生が言っているのならまだしも、男子高校生しかも2m超えのおよそ子供からかけ離れている紫原が言うにはあまりに不自然すぎて。
笑いをこらえている間も、カキ氷だっておいしいんだから雪だっておいしいと思うんだよー、だの、それよりやわらかいしさー、だの言っている。
「もうさー、食べてみよっかなー?」
つらつらと理由を並べていた紫原だったが、また唐突にそう言うと小さな窓を開け放った。
すーっと冷えた空気が小さな部屋に流れ込む。急な温度の変化に少しだけ身体が震えた。
紫原はその長い腕を外へ伸ばすと、近くに積もっていた雪をひとつかみする。
じわり、と体温で雪が溶けていく感覚。さらさらとやわらかいそれは、冷たいというよりはじくじくと刺すような痛みを与えた。
しかし紫原はそんなこと意に介さず、ゆっくりと口元へ運んでゆく。
やめておいたほうがいいと思うぞ、という氷室の静止も聞かず、ぱくり、と口に含んだ。
はじめは無表情だったが、どんどんその顔が険しいものへと変化していく。
そして、
「うぇ、まずっ!?」
叫んだかと思うと、開いたままの窓の外に身を乗り出してぺっ、と吐き出した。
若干涙目になった顔を氷室のほうに向ける。
「なーんも味しないんだもんっ!しかも冷たいしー。」
「だから言っただろう、やめておけって。」
「しかもなんか寒くなってきたしーっ。」
「窓開けっ放しだしな。」
氷室が指摘すると、大人しく窓を閉めた。
窓から離れ、ぎゅぅ、と氷室にくっつく紫原。
どうした?、と問いかけると、寒いから、と短く答えた。
「仕方ないな、全く。」
くしゃ、と頭を撫でてやり、顔をこちらに向けさせる。
静かに唇を重ねて口の中のものを押し込むと、唇を離した。
からん、と硬いものが歯に当たる音がして、紫原は不思議そうな顔をする。
「これで口直しでもすればいい。」
そっぽを向いてつぶやく氷室の耳はうっすら赤く見えた。
「これ甘いね、なーに?」
「おかしいな、ただののど飴のはずなんだが。」
答える氷室が、妙にかわいく見えて。
「それにしてもさ、室ちんからしてくれるなんてめずらしいねー。クリスマスプレゼントだと思って受け取ってもいいのかなー?」
「好きにすればいいさ。」
思わずからかってみたくなって。
「んー、でもやっぱりこれじゃ口直しになんないよー。」
腕の力を強めて、耳元でささやいた。

「室ちん、たべちゃってもいいかな。」


外は白くて、ひたすらに白くて。
舞う雪が、隣の別世界を祝っているように見えた。

―メリークリスマス―