橙
十字架天使は、時々、ヘンなことを知っている。
すこし前も、突然、喋りはじめた話題が、
「きゃ~の、私たちって、『レンジャー』さんみたいですの!レンジャーさんは、みんなで、世
界の平和を守るために戦ってるヒーローなんですのよ~!」
十字架天使の言う『レンジャー』は、五人組、色によって役割が決まっており、必殺技の名前
を叫びながら敵を倒す、という。
「必殺技の名前を叫ぶって……なんだあ~、それじゃあ、ボク達といっしょじゃあないか~」
ヒーローと一緒なのが嬉しいらしく、でれでれと相好を崩す、ヤマト王子。
「……ふーん、くだらない」
ヤマト王子が右といえば左と言う天子男ジャックは、ちぇ、と、舌打ちして、ソッポを向いた。
「はらはらはら~、くだらないことは、ないですのよ!赤いレンジャーさんは、熱血漢のリーダー、青いレンジャーさんは、クールで頭脳派、黄色いレンジャーさんは、カレー大好き力持ち、緑のレンジャーさんは心優しい動物好き、そして、ピンクのレンジャーさんは、紅一点、女の子
のレンジャーさんなんですの」
十字架天使は、弓矢を出して、”ピッ”と、ポーズを取った。
「ほら、わたしも、紅一点ですの。ピンクさんですのよ!」
男性陣が、揃って、ほお、という顔をした。何か、得心したらしい。
「……それでは、わたくしは何になりますか?」
列の最後尾にいた聖フェニックスが、ニコニコと微笑みながら、十字架天使に問うた。
「え~と、その……そうですの、司令官さんですのよ!レンジャーさん達は、司令官さんの指
示で、出撃するんですの」
聖フェニックスのことまでは考えていなかったらしい、十字架天使は、しばらくもじもじし
た後、ぽんと一つ手を打って、答えた。
(司令官……それならば、スーパーゼウス様のことでは?)
聖フェニックスは、内心、そう思った。が、せっかく彼女が考えたくれたのだ、無下に否定す
るのも、悪い。
「そうですか」
とだけ言って、微笑んだ。
「聖フェニックス様が、司令官なら、ボクが、やっぱり、赤かな?」
ヤマト王子が、せいぜい立派な顔付きでーーーでも、得意な気分も丸出しで、胸を張った。
「なーに言ってんだ、オマエがリーダーって顔かよ!オマエがなるくらいなら、オイラの方が、
まだ赤向きだぜ!」
天子男ジャックが、ヤマト王子に突っかかる。
「何を!」
「なんだよ!」
いい気分に水を差されて、ヤマト王子も、天子男ジャックを睨み付けた。
「天子男ジャック、キミは、赤よりも黄色なんかがお・似・合・い・だよ!」
「なんだと!力あんのは一本釣帝だし、大食いは牛若天子にまかしとけばいーじゃねーか!!」
(……誰も大食いなんて言ってないですし、牛若天子が大食いなわけでもないですよ)
聖フェニックスは、胸の中で、こっそり、ため息をついた。
「ボクが赤だ!」「いーや、オイラだ!」「きゃーの、もう二人ともやめてくださいのー!」
という、いつものやりとりを聴きながら、聖フェニックスは、ぼんやり、考える。
リーダー、ということであれば……現時点では、やはり、ヤマト王子が、わずかながら赤に近
そうで。
しかし、では天子男ジャックが何色かと問われれば、やはり、どの色にも当てはまらないよう
な、気がする。
赤に近く、でも、決して赤ではない……。
(オレンジ、といったところでしょうか)
自分の出した答えに満足して、聖フェニックスは、一人、頷いた。