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約束の向こう側

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「来年もここに来よう。」

「それは約束ですか?」

「あぁ約束だ。」

そう言い切ると貴方は私より高い身長を少しかがめて、私の瞼に口づけをした。
将来の約束ほど当てにならないものはない、知ってか知らずか貴方はそう約束し、
私は顔を上げ貴方の顔をじっと見つめ、そして少し間を置いて
「そうですね。」と笑顔で返した。

貴方は満面の笑みを浮かべ、私を抱き寄せた。
貴方には来年また私とここに居ることが、確かな未来として見えるのだろうか。
そんな貴方が羨ましい。私には未来に約束を取り付けても、不確実過ぎてその図がはっきり見えない。

私は貴方を疑っている訳ではない。貴方に愛していると伝えられたその日から、貴方の行動に何一つ嘘はなかった。
貴方に好かれた事実が信じられなくて、言葉、行動の一つ一つが嬉しかった。
本来なら結ばれない恋が実を結んだ。今では貴方が隣にいることが当然で、存在が暖か過ぎて、永遠だと思いたいその時間に来年という区切りを、名前を付ける事が怖い。
約束を取り付けることで終わりが来るなんてことはないのに。
この約束は私を不安にさせる。

私は貴方を失いたくないのだ。

約束はいつまでも残る。果たされた約束は信頼に、果たされなかった約束は雪のように冷たく心に積もる。
それは相手が大きな存在であればあるほど深い跡を残す。貴方のぬくもりのように、
この約束も確かなものであって欲しい、と私は願う。

そして今、私は雪の中を走っている。約束は去年から変わることなく、二人の間に確かにあり続けた。
坂を登り街が一望できる高台まであと少し。「そうですね」という短い言葉で結んだ約束を果たすために。
ほら、貴方の姿が見える。白い雪が貴方のお気に入りのコートに積もっている。

「アーサーさん。」

「菊!」

彼が去年と同じ笑顔で私を迎える。
その表情がまた来年も二人が隣に居続ける事を約束するようで、
私は永遠を信じたくなる。

あぁどうか来年も私と貴方が幸せで溢れていますように。

作品名:約束の向こう側 作家名:香月漣菟