「悲しみ」と「憎しみ」
あいつが誰を好きで誰と付き合っているか、なんてぐらい・・・・。
人に接する態度見てれば一発でわかる。
・・・顔に出やすいもんな。
イギリスは視線を心寄せている者へと移した。
あいつは自分が命を賭けて育てた金髪のメガネの青年と部屋のすみ、大きな窓の前で何かを喋っている。
金髪青年は、スーツ__を着崩している格好と言った方が合う姿__に対して、あいつは自国の民族衣装を身に纏っていた。
今は午後5時なので窓から差し込む光もそんなに眩しくないが、俺は目を細めて窓付近に立っている二人を見つめた。
風が窓から吹き込むごとに俺には無い黒い髪が輝きを放ちながらサラサラと揺れる。
長い袖をブラブラさせて笑顔を常に絶やさない。
あぁ・・・・やっぱり、綺麗だ。
ただ、残念なのはその全てがもう絶対言っていいほど手に入らないこと。
だって、あいつは最愛の人とお付き合いしているから。
あいつと奴が話しているときは、どんなに小さな用件でも、あいさつでも、二人とも顔をほんのり赤くさせている。
そしてなにより、幸せそうな表情。
そういう出来事に初めて気が付いたのは、あいつに告白しようと決心した日だった。
___そうか。あいつは奴が好きだったのか。何故今まで気が付かなかったのだろう。あんなに観察・・・いや、見てきたのに。
俺は気が付いた瞬間告白をあっけなく諦めた。
そして、初めての恋を無かったことにしょうとした。
・・・・なんて弱いのだろう。俺は。
フランスに今までの出来事を相談したとき、一番最初に言われた言葉を自分自身に言い聞かせる。
たしかに。
髭に相談した時は頭にきてそのまま帰ってしまったが、今思い返すと確かにな、とすんなり納得できる。
・・・・・初恋は叶わない。
誰から聞いた言葉だったか?
では、あいつは奴との恋が実っている、ということは奴との恋が始めてではない、ということか?
あいつの恋人__つまり、奴__に対する振る舞いは、どっから誰が見ても初々しいが・・・・。
どうされました、イギリスさん。随分元気がない様子。
この低い声。
この声色。
今、一番聞きたくない音声が隣から聞こえる。
頭の中で響く。
あぁ。とても不機嫌なんだ。
見て判るだろ?と隣にいる話相手を睨んだ。
俺の横に立っている奴はあいつと同じ黒髪だ。
しかし、あいつと違って、短く切り揃えてある。
ビシッと着こなしたスーツはそこらの西洋人よりにあっている。
そんなに怒らないでください。私とあのひとが付き合っているぐらいで。
急に奴の声が?オクターブ低くなったような気がした。
しかも、こちらを睨み返した。
俺は怖くなったのでまた視線をあいつへと移した。
そんな俺に奴はさらに聞きたくもない音声を発声させる。
知ってましたよ。貴方があのひとのことを好きだって事ぐらい。
どうですか?好きな人を盗られる気分は。
あ、一応言っておきますが、私もあのひとも、お互いが一番愛する者で認め合っていますから。
__次の瞬間、俺は頭より体が先に動いていた。
気が付いたときには、奴を殴っていた。
___っ!
・・・・・フッ。
なっ・・・何が可笑しい!?
貴方は、なんと弱い方なのでしょう。
私から暴力や武力でしかあのひとを奪えないのですか?
紳士が聞いて呆れますね。
奴は踵を返して窓際に立っている金髪メガネ青年と民族衣装の黒髪のあいつの元へと足をすすめていった。
・・・あいつの笑顔がさらに明るくなる。
そして走ってスーツ姿の黒髪の短髪青年へと抱きついた。
短髪青年も嬉しそうに__後姿だから表情はわからないが、絶対に笑顔だ__あいつを抱きしめ返した。
俺はただ、その場に立っていることしか出来なかった。
作品名:「悲しみ」と「憎しみ」 作家名:菊 光耀