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恋人をアイスクリームホイップする

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 素敵だったり無敵だったりする気がしないでもない折原臨也にもけっこうたくさん苦手なものがある。たとえばトマトの皮。口の中に残る感じが嫌だ。たとえば車。ときどき酔う。たとえばセルティの惚気を語る新羅。めんどくさい。たとえば怒ったドタチン。怖い。たとえば九十九屋真一。黙秘。たとえば変なスイッチの入った恋人。いわゆる最愛の敵。
 それから、満員電車。パーソナルスペースという言葉が崩壊するその場所。
 うっかりシズちゃんに会ってしまったばっかりに大幅な予定の遅延と変更を余儀なくされ、ったくなんだよもーほんとになんだよシズちゃんと愚痴りながら、そうして時間が悪くて乗った電車が満員電車で。そんな場所で、折原臨也は恋人に会ったわけだ。
 まあおおむね、最悪のシチュエーションというやつだ。
 気づいたの、あとになってからだけどね。
「満員電車って、嫌だよねえ」
 うんざりと、徹夜後のナチュラルハイと気だるさで言ってみた。まわりじゅうに満ち溢れる空気を変換した言葉。ニアイコール、感想。
「そうですねえ」
 のんびりと、恋人が同意した。慣れているからか、そう嫌な顔をしていない恋人。おや、と思う。ちんまりとしていてすぐに潰されそうな恋人が、あんまり満員電車を嫌がらないのが意外だった。それから、いやいや、と思う。もしかしたら、思いがけず、恋人に会えたから上機嫌なのかも。実際、折原臨也はそうだった。折原臨也の自意識は、わりと常に過剰だった。それに現在、ラブ成分も過剰気味。
 いつもよくまわる口が、いつもより余分にまわっていた。
「こう、手のやり場に困るって言うか」
「男の人はたいへんですね」
 そういった、恋人は、少しの間、ぼんやりと考えこんで、それからにっこりと微笑んだ。いいことを思いついた、というふうに。
「臨也さん、臨也さん」
「なあに」
「じゃあ、両手をつなぎましょう」
「え、やだ」つなぎたいけど。
「だめです」
 あっさり言った恋人に、両手をつかまれてしまった。そうして悪いことに、両手は向かい合ったふたりの胸のあたり。視界に入る。
 なにこれちょう恥ずかしい。
「やめない?」
 なんとなく、顔を暑い。恋人は答えずに、にー、と性質の悪い顔で笑った。そんなところまでかわいくてかわいくて仕方がない気がするので、なんだか折原臨也は嫌になった。その間にも恋人は、にぎにぎにぎにぎと折原臨也の手を握り、検分するみたいに見つめている。なんか、くらくらして、チカチカする。お花畑。夢の国。わあ、メルヘン。
 そうして、楽園の崩壊ははやいものといつだって決まっている。
 大きく揺れて、電車が止まる。わ、と思わず恋人の手をほどいて、恋人の体を支え、自分は適当に吊皮を掴んだ。停車駅でひとが吐き出され、新たに吸い込まれるまでのほんの隙間。余裕。空白。恋人の手がするりと折原臨也の腰にまわった。
 声をひそめて、恋人は、うれしそうにうふふ、と笑った。
「痴漢プレイですね」
「……、………、………、俺がやられる方なんだ?」
 答えが返ってこない代わりに、恋人の慣れ親しんだ小さな手が、おしりのあたりを這いまわった。