ゆるされる痛み
ゆるされる痛み
「君が信じてくれたから、俺はそのままの俺でいられるんだよ」
その言葉が、ひどく胸に染みる。
嬉しいけど、違うんだよ、滝沢くん。
だって私は、一度あなたを裏切ったんだよ。
「関係ないよ。咲が信じてくれたのは本当で、それで俺は立ち上がれたんだから」
じわり、と視界が揺らいだ。
頭を撫でてくれる滝沢くんの手は優しい。
「顔を上げてよ、咲」
緩く首を振る。
それはできない。
だって今、私は泣きそうなんだ。
こんなくしゃくしゃの顔を、滝沢くんに見られたくない。見せてしまいたくない。
滝沢くんを信じたのは本当だけど、裏切ったのも現実だから。優しさが胸に痛かった。
無言のまま俯くしかできずにいると、滝沢くんが下から私の顔を覗きこむ。
びくり、として僅かに身を引くけど、滝沢くんは目を逸らさないで、私の肩を抱いた。
「咲は悪くないよ」
どうしてそんなに優しいの?
涙が零れそうになる直前、震える声で問いかけた。
「咲が大切だからだよ」
涙が、零れた。
「ごめん。泣かせるつもりは、なかったんだけど」
あやすように背中を撫でて、私を抱き締める滝沢くんの声には、困ったような響きが混ざる。
「…俺は裏切られたなんて思ってないんだけどさ、もし咲がどうしても自分を許せないって言うんなら、ひとつだけ」
黒い瞳から、目を逸らせなかった。
「ずっと俺の傍で、俺がすることを見ていてよ。一瞬の裏切りと一生の約束じゃ、桁が違うかもしんないけどさ」
どうかな? と問いかける瞳に、ほんの少しだけ、不安そうな色が過ぎった気がして。
私は迷うことなく、頷いていた。
寧ろそれは、私が望むところでもあるんだよ、滝沢くん。
「…ありがとう、咲」
ううん、と首を振る。私は何もしていない。
ほっとしたように笑んだ滝沢くんにつられるように、私もようやく、微笑めた。
滝沢くんの手が頬に滑って、ゆっくりと唇に指先が触れる。
「誓いのキス、してもいい?」
え、と戸惑いの声を漏らすと、くすり、滝沢くんは笑った。
■END
お付き合いいただいて、どうもありがとうございました!
( 2010.12.26. )