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、のように、あかい

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「にいちゃ」
 神楽が舌ったらずな声で何度もくりかえし呼んでから、神威はようやくふり かえった。
 鼻をうさぎのように、くんっとうごめかせて、神威はニコッと笑う。ようやく兄に興味を持たれたことがうれしくて神楽はふにゃふにゃに表情をゆがませる。
 この、とらえどころのない兄が、なにに興味を持っているのか、神楽なりにかんがえて、ようやく見つけた答えが、これ、だった。
 じぶんの肌がぐちゃっとやぶれて、そこからたらたらとあかい、血が、流れる。
 そのうち傷は塞がってしまうけれど、兄よりもそのスピードはずっと遅い。まだ、神楽がちいさいから、だ。もう少し大きくなったいまの兄みたいになる。その頃には、兄はもっとおとなに近付いてるだろうけれど。
(はやくおおきくなって、おれと、おなじになってね)
 うまれてすぐ――まだちいさすぎてなにひとつおぼえてないはずの頃なのに、神楽はただそのことばだけをおぼえてる。なんどもなんどもすこしずつ形を変えながら、神威が神楽の耳元でささやきつづけたことば。まるで、呪文、あるいは、のろいのように、神楽のこころの染みついている。
 神威はいつものはりつけたような笑顔から、うっとりと口を歪める。その顔をみると、神楽のちいちゃなこころはうれしくってぶるぶるとふるえる。
「血が、ね、出ちゃったアル」
「ん」
 ちいさく首を傾げて、兄はくるりと反転する。神楽が差し出した右腕をとった。そこにぱっくりとひろがった傷口に、神威が小さな親指をくいこませる。
 痛ッ、と喉元まででかけたことばを飲み込む。じぶんの、皮膚の内側に兄のほんの指先が入り込んで、すぐに抜かれる。内側をふれられて、ほんとうに痛い。傷口からまた、血がだらだらと流れ出す。兄はその傷口に舌先でふれる。痛みに耐えられなくて、神楽は顔をしかめてしまう。
 神威が微笑みをふかくして、じぶんの指先についた血をぺろりとなめる。兄は、こころのそこから、笑ってる。
(かぐらを見て、わらってるんだ)って、確信する。このあかいものが、何よりも兄のすきなもの。
「にいちゃ」
「なあに、神楽」
 名前を呼んでくれたのがうれしくて、兄の裾をひっぱった。くるりと背を向けて、それでも妹の小さな手を払ったりしない。神楽はこころの中で何度も何度も祈る。
(このあかいものくらいかぐらのことをすきになって)
作品名:、のように、あかい 作家名:松**