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新宿のオリハラさん 3

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 新宿のとあるマンション


「ってかさぁ、家賃くらい俺が払ってあげるから
 別にここに住まなくてもいいんじゃない?」

 臨也は、自分の家のドアの前で煙草を吹かしている
 静雄に語りかける。

「金だけが目的じゃねぇんだよ」

 深く息を吐きながら静雄は答える。

「ここ1ヶ月、手前に悪さはさせねぇ」

 電灯に照らされた顔は楽しげだった。

「それじゃあ俺もシズちゃんの事、観察させてもらうよ」




 -----嫌いな奴なら情報収集くらいに思えばいいんじゃない?



 波江がチャット中に言っていたことを思い出した。
 静雄を手駒の様に操れれば、こちらとしては好都合だ。
 1ヶ月くらい仕事ができなくてもお釣りがくる。

「別に構わねーよ。・・・ってか、さっさと入れろ」

 静雄は煙草を足元に落とし、火を消した。

「分かった。・・・・・・荷物は?」

 カードキーでロックを解除して、臨也は手ぶらな静雄を
 見つめる。

「会社のロッカーの中に入れてるから必要ねえよ」

 着替えだけのようなもんだし、と静雄は付け足した。

「へー、凄いなぁ。人間って」

 声を弾ませながら臨也は言う。

「んだよ。そういう態度変える気ないなら・・・」

 静雄は手を鳴らし始める。

「恐い恐い。怒らないでよ」

 両手を挙げて降参のポーズをとってから、臨也はドアを開ける。

「入って」

 静雄は何も言わずに家の中へ入っていった。
 臨也は後から追い越して、先に部屋に入る。
 見渡したが、誰もいる気配は無い。

「波江さん、帰っちゃったか」

 時計を見ると、9時前といったところだった。
 俺に無言で帰る時にいつもある置手紙と共に、
 レトルトで作られたシチューが置かれている。

「旨そうだな・・・食っていいか?」

 静雄が後ろから覗き込む。息遣いが感じられる程に
 距離が近い。さっき寿司を鱈腹食べたくせに
 まだ食欲があるのか、と呆れるのを通り越して
 うっすら感動を覚えながら臨也は首を縦に振った。

「あ、そうだ。これ渡しとくよ」

 早くもラップを開け始めている静雄に臨也はスペアの
 カードキーを渡す。

「毎回ドア壊されたらたまったもんじゃないから」

 嫌味に本音を交えながら臨也は言った。

「あぁ。もらっとく」

 それに気が付かず、静雄は財布の中にカードを仕舞う。
 そこでなにか思い出したのかチラチラと気まずそうに臨也を見た。

「どうしたの?」

 疑問に思って臨也は愛用しているファーコートを脱ぎながら質問する。

「お小遣い・・・くんねぇか」

「・・・ハハハッ、お小遣い!?」

 臨也はこれ以上可笑しいことはない、というくらい笑った。
 涙を拭う素振りをしながら、机の上に置かれている財布を手に取る。
 確かに静雄が貯金する様子は想像できない。

「1ヶ月・・・30万でいい?」

 ごっそりと諭吉を渡す。

「3万で十分だ」

 静雄は十分の一しか受け取らなかった。
 
「そう?もらっとけばいいのに」

 臨也は不思議そうに言いながら、渋々お金を戻す。

「無駄遣いもゆるさねえからな」

 静雄はポケットに財布をいれながら、椅子に座り
 スプーンを要求した。

「親じゃないんだから・・・はい」

 臨也は気だるそうにスプーンを静雄に手渡す。

「サンキュ」

 静雄は直ぐにおそらく四度目であろう食事にとりかかる。
 まぁ、まだ温かいんだろう。

「俺、ちょっと風呂入ってくる」

 その様子を見てため息をつきながら、臨也はリビングを後にした。











 

「ふぃー」

 浴槽に浸かりながら、臨也は伸びをした。
 これから暫くは風呂と睡眠だけが、くつろげる時に
 なっていくんだろうと確信する。

(ガチャ)

 ドアが開く音がした。思わずお湯に身を沈める。
 服が脱ぎ捨てられる音が聞こてくる。
 あまりにも無言で進行しているので、思わず声をかける。

「し・・・シズちゃんだよね?何してんの??」

「あぁ?俺は入っちゃ駄目なのかよ」

 少し苛立っている声がドアの向こうから聞こえる。

「駄目っていうか、一緒に入んなくても・・・」

 臨也が言い終わらない内にドアが開いた。

「意識してんじゃねえよ」

 静雄はタオルを巻いていたが、たくましい体のラインが
 臨也の目に焼きつく。
 臨也は耐え切れなくなって叫んだ。





「シズちゃんの馬鹿っ!!!!!!!」