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はとさぶろう
はとさぶろう
novelistID. 955
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la tour d'ivoire(サンプル)

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ジュノーの飛行場を出ると、ブラックスミスは大きく背中を伸ばしながら欠伸した。長い紅紫の髪が、乾いた風に揺れている。
「んー、大分眠れた。これで調子良く狩りに行けそう」
「空きビンとハーブ目当てか」
後ろにいたウィザードが尋ねれば、ブラックスミスはおうと頷いた。
「過剰精錬で一儲けしようとしたら、これが見事に折れまくってさー。また地道に貯めなおしってワケですよ」
やれやれといった様子で呟くブラックスミスを、ウィザードは半眼で見やった。
「最初から地道に貯めろよ」
ごく当然の指摘に、しかしブラックスミスは分かってないなあと呟く。
「俺みたいなしがない鍛冶屋さんだって、ギャンブルで一発当てて大儲け、ってロマンがあるわけよ」
んでもって、と続けながら、ブラックスミスは飛行場へと目を向ける。
「大金稼いで、いつかは自分の飛行船を手に入れて世界中を飛び回るのよ」
大きく胸を張って、そう宣言する。
「こんなでっかいもんを飛ばすんだぜ。小さいことなんか考えてられるかっつーの」
彼の視線は、飛行場に停泊している、先程まで二人が乗っていた飛行船を見つめていた。その飛行船へとウィザードも視線を向けたが、その表情は大層冷めたものであった。
「で、メンテナンスする金もなくてスクラップにするわけか」
「つまんねー奴だなー」
不満そうな表情で文句をいうブラックスミスを、ウィザードはふん、と鼻で笑った。
「ぐだぐだ言ってる間に、さっさと稼いでこい」
「言われなくたって行きますよ」
じゃ、と手を振って離れていこうとしたブラックスミスに、ウィザードはふと思い出したような表情をすると、引き止めるために声をかけた。
「あ、行く前に宿とっとけ」
「はあ?」
今度ははっきりと不満の色を表して、ブラックスミスが振り返った。
「何で俺がやんのよ」
「愚問だな」
いっそ清々しいまでの笑顔を浮かべながら、ウィザードが答える。
「お前のそのカートだと、一旦荷物整理しないと狩りになんぞ行けないだろ? それに比べて、私はノート類以外の手持ちの荷物もないし、このまま魔法アカデミーに行けるわけだ」
「そりゃテメエが邪魔だった手荷物を俺のカートに放り込んだからだろ」
「一発当てて大儲けなんてロマンを持つ奴が、細かいことを気にするんじゃない」
「それとこれとは別問題だ」
ブラックスミスの言葉を聞き流して、ウィザードはジュノーの町の中心部を指差した。
「どうせ荷物を片付けるんだから、宿までとってもそれほど時間は掛からないだろう」
ほれ行ってこいと、まるで犬に棒切れでも拾いに行かせるような調子で、ウィザードが告げた。ゴーグルの下で、ブラックスミスのこめかみがぴしりと引きつる。
「……俺の分の一人部屋だけとってやる」
「高くつくぞ」
もっともな指摘に、ブラックスミスが言葉に詰まる。面白がるような表情で眺めているウィザードの前で、彼は大きく溜息をつくと、仕方ないといった様子で片手を上げた。それが了承の意であることは、ウィザードもよく理解している。
未だ不服そうな空気をまといながらも、カートを引いたブラックスミスがジュノーの中心街へと進んでいく。その背中が、行き交う人々の中に紛れ込んでしまうと、ウィザードはそっと背後を振り返った。
飛行船はまだ、飛行場の中に停泊したままである。青い空を背景に、ひとつの建造物であるかのように、飛行船は佇んでいる。飛んでいる間は勢い良く回っていたプロペラも、今は完全に動きを止めていた。風を受けても、まるで揺らぐことがない。この大きな船が空を飛ぶのだと思うと、ブラックスミスではなくても幾らか感じ入るものがあった。