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風邪にまつわるエトセトラ

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鈴木の場合



魘されるというのは一瞬のことで、真実鈴木には一体何がこんなに己を苦しめているのか理解できなかった。ただ、ぼうと意識を囚われた片隅で、握りしめた携帯電話の電話帳から、本当に何故だか、(後にして思えば、だが。)佐藤のことを選んで、あまつさえ呼び出し、あろうことかワン切り!(と、思われる通話時間。)

なのでどうして彼がうちに居るのか思考を停止させることの方に寧ろ重点を置いている今の脳味噌では到底理解できないのは当たり前で、取り敢えず心配そうに己の顔色を窺う佐藤を(……なんだ、うちは犬なんて飼ってねーぞ、)なんて思ったりしていた。
身体を起こそうとなんとかもぞもぞしてみるが、開いた視界はすぐに渦を巻き始め、しばらくしてから落ち着いて、ようやく己が今どのような状況に居るのか理解した。佐藤、と呼びかけようとして声が掠れる。
「……鈴木、お前のどてら姿初めてみたよ、」
どうしたらそんな風にこの世の終わりみたいな顔をしてそういうくだらないことが言えるのだろうか。もし、今の状況で体力が並みぐらいにあったとしたら確実に蹴りは入れていただろう。まあそんなものに揺らぐ佐藤ではないが。
何も返さない鈴木に、佐藤は手のひらを近付ける。避ける気力もなくて、触られることを極端に嫌がる己が簡単に捕まった。額に触れる佐藤の手が程良く冷たくて不覚にも気持ちがよい。
「本当はね、お前のこんなに弱ってる姿、初めてみたよって言おうとしてた」
佐藤のこんな泣きそうな顔。(何故お前は他人の為にしか泣けないんだ、まったく)
「さ とう、」
かぴかぴに乾いた喉奥をなんとか震わせて鈴木は佐藤の名を呼んだ。するとすぐにすごい近くまで寄って本当にそのままお前は犬として生活できるんじゃないかという笑顔をこちらに向けてくる。単純な奴だ。
近付かれると否応なく佐藤の香りがする。これはどうもやつの家の洗濯物の匂いらしい。男のくせにこんないい匂いがするなんて。鈴木は無意識に佐藤の体に縋りついた。
「……お前、笑い顔、変……!」
「え、えええええ」
佐藤の苦笑いが震えるようにしてこちらにも伝染する。普段なら絶対こんなことしてやらないんだから、「感謝しろよ」
自身の頭をくしゃくしゃとしたあと、困ったように佐藤は腕を回した。
「佐藤、もうちょっと優しくできないのかよ」
「顔も見せてくれない鈴木に言われたくないなー」
呼びこんだつもりはないけれど。
「あーやべー、なんか、ありがたいわ」
それでも何か温かな温もりが欲しいと願うのは。(単に熱の所為だと思う事にしたい)