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lonely Christmas

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「‥‥‥‥ム、そうか。」
「ごめんね、御剣‥‥。せっかくのクリスマスなのに。」
「仕方がないだろう。仕事なのだから。」
「本当、ごめん。この埋め合わせは必ず‥‥。」
そこまで聞いたところで、手が勝手に受話器を置いた。電話の向こうの成歩堂の顔を想像して、御剣は自身の身勝手さにため息をつく。
――――電話の向こうの彼の声は本当にすまなそうだった。
(仕方がないだろう。仕事なのだから。)
あの言葉は自分自身に言い聞かせたい言葉だったのかもしれない。どうして成歩堂がいないくらいで、こんなに不機嫌にならなければならないのだろうか。
成歩堂と付き合い始める前の去年だって、一人で過ごした。一昨年に至っては留置所でクリスマス、なんて常人にはなかなか出来ない体験をしている。
――――一人で過ごすクリスマスには、慣れているはずだった。
(なのに。)
なのにどうしてこんなに‥‥こんなに彼がいないことが物足りないのだろう。
いつの間にか溢れてきそうになる涙をこらえて、御剣は椅子から立ち上がる。
(まあ、良い。)
どうせ、慣れているんだ。クリスマスなど、一年で365日あるうちの一日にすぎない。他の日に、いくらでも成歩堂と会える。クリスマスである必要性は、どこにもないのだ。
――――そう、言い聞かせながら。


――――クリスマス当日。
仕事が終わり、自宅へとたどり着いた御剣は、家の鍵がかかっていることを確認して、御剣は家のドアを開けた。玄関から眺めた部屋の中は真っ暗だが、成歩堂なら隠れてサプライズ、なんてこともやりかねない。
「成歩堂?」
寒々しい廊下に、御剣の声だけが響きわたる。返事は、ない。
(やはり、な。)
御剣は慌てて首をふる。
ナニを期待していたんだろう。成歩堂は仕事があるといっていたではないか。なんで、家にいるなんて、思ったんだろうか。
(バカだな‥‥私は。)
そう自覚すると同時に涙が溢れてきた。御剣はゴシゴシと擦る。どうにか、涙は止まった。
一人で過ごすクリスマスには、慣れているはずだったのに。‥‥なのにどうしてこんなに胸がいたいのだろう。
御剣は激しい疲れを感じて、玄関先でへたり込む。
(――――きっと。)
きっと、心のどこかでは期待していた。成歩堂が仕事を早く終わらせて帰ってきてくれることを。そして、自分と一緒にクリスマスを過ごしてくれることを。
そんなこと、あるわけないのに‥‥な。
御剣が自嘲気味に笑ったその時。
「メリークリスマス!」
ひどく懐かしい声と共に、鳴り響くクラッカーの音。
ゆっくりと振り返るといつの間にか背後のドアは開いている。‥‥月明かりの逆光ではっきりとは見えなかったが‥‥あれ程愛しく想った、キミが、いた。手にはバッチリクラッカーを持っている。
「成歩、堂?」
御剣は驚いてただただポカンと口を開けるしかない。どうして、彼がここにいるんだろう、夢を見てるみたいだ、なんて考えながら。
「御剣に会いたくてさ、仕事早めに終わらせて来ちゃったよ。アレ?御剣‥‥泣いてるの?」
いつもと同じような口調のまま、シルエットだけの彼の手が伸びてきて、御剣の頬を撫でる。
その時初めて、御剣は一度は再び止まった涙が流れていることに気がついた。
「ぼくがいなくて、そんなに寂しかった?」
(一人で過ごすクリスマスには、慣れているはずだった。)
けれど、胸が痛んだ。涙が流れた。‥‥‥‥それは、成歩堂が自分の生活にあまりにも深く入り込みすぎて、そして自分があまりにも深くキミを愛してしまったから。
だが、この涙はきっと違う。
「‥‥安心した。」
「え?」
「キミが来てくれて、安心した。」
成歩堂が仕事を切り上げてやって来てくれる、という自分の読みは間違っていなかったのだ、と。そのことへの安心。
成歩堂は少しだけ照れ臭そうに笑うと、後ろ手に開けていたドアを閉める。世界が再び暗闇に戻った。
ヒトに見られるといけないから、と言い訳のように呟くと、成歩堂は強く抱き締めてくる。
そのまま二人で深いキスをした。愛を確かめ合うような、深いキス。
やがて唇を離すと、成歩堂は囁く。
「ケーキ買ってきたから、後で食べようね。」
「‥‥ああ。」
「御剣の好きなワインも買ってきたんだ。」
「‥‥ああ。」
「それから‥‥‥‥。」
まだナニか言おうとする成歩堂の唇を塞ぎ、御剣も囁いた。
「もっと先に言うことがあるだろう?」
「‥‥‥‥抱かせてね?」
やっと本音を出した成歩堂に御剣は苦笑する。
「構わないぞ。だが‥‥今は‥‥‥‥。」
「今は?」
「窒息するほどキスが欲しいな。」
今度は成歩堂が笑う番だった。
「良いよ。でも、窒素して死んでも良いの?」
「‥‥‥‥キミと一緒なら‥‥‥‥。」
(構わない。)
そう続けようとした言葉は、キスによって奪い取られた。
薄れゆく意識の中で、最後に思ったこと。それは――――。
(シアワセだな、私は。)
理性的な私には珍しく、そんな、バカみたいなことだった。
作品名:lonely Christmas 作家名:ゆず