茶封筒記念日
ドゴンッ
「い~ざ~や~、もう池袋には来るなって言ったよな~?」
脅威の怪力で、ある黒髪の男のもとに投げられたのは、何と自動販売機だった。その怪力の持ち主は、金髪にサングラス、そしてバーテン服という異様な格好をした男。『平和島静雄』。ここ、池袋では関わってはいけない、ということで知られている。投げられた自動販売機を避けた黒髪の彼も大した者だ。
「何だい、シズちゃん。今日は受け取って貰いたい物があるのに~」
「ノミ蟲から貰う物なんか何一つとして無いぇぇぇぇっっっ!!!」
黒髪の彼の名は、『折原臨也』。池袋では関わってはいけない人物のもう一人だ。この二人は相性が悪く、ちょっとでもすれ違っただけで、とてつもない戦いを見せてくれる。今まで静雄は、自動販売機、道路標識、ガードレール等、様々な公共物を取っては臨也に投げつけ、壊してきた。しかし、今日は違う。臨也から仕掛けてきたように見える。
「シズちゃんには絶対受け取って貰わないと~。もちろんお返しは3倍でね!!」
「?何のことだぁ?変なことぬかすと、ぶっ殺すぞ!」
そう言いながら静雄は、手近くにあった道路標識を引っこ抜いた。臨也のコートの中からは、小さな箱を忍ばせている。
「今日こそは死ねぇぇぇぇぇっ!!」
と言いながら、静雄が振りかぶりながら振り向いた瞬間、
パクッ 臨也は、振りかぶられた道路標識を華麗にかわしていた。その動きと同時に、静雄の口に何か茶色い物が放り込まれた。口に入れられた途端、すっと溶け、甘い味が口に広がる。
「てめぇ、何仕込みやがった…」
「べっつに~?今日の日付を考えれば分かるはずだよ?お返しは、その3倍でね?」
「なっ!」
「まったね~」
別れの言葉を言い、臨也は歩いていった。静雄は少しの間、呆然と、その場に立ち尽くしていた。引っこ抜いた道路標識を適当な場所に置いていき、静雄も歩みを進めた。
「くそっ、喧嘩損だ…。おまけに口ん中に変なもん入れやがって…」
口の中には、まだほのかに甘い味が残っている。臨也は毎度のように、おかしな薬品を持っているため、油断ができない。
「んっ?」
何か懐に違和感を感じた。バーテン服のボタンを開け、覗いてみる。そこには、ピンクのリボンで結ばれた、小さなプレゼント箱が入っている。
「何だこりゃ?」
そしてふと、さっき言っていた、臨也の言葉が頭に浮かぶ。
(今日の日付を考えれば分かるはずだよ?)
静雄は自分の携帯電話を取り出し、今日の日付を確認しようとする。そこには、2月14日と記されている。今日はバレンタイン。いくら鈍感な静雄にもすぐに分かった。恐らく懐に入っていたプレゼント箱も、臨也が入れた物だろう。スキの無い静雄に入れる程なのだから、相当な早業で入れたに違いはない。静雄は、そのプレゼント箱からチョコレートを一つ取り出し、口に運んだ。
「甘ぇ…」
そう言いながら二つ、三つと口に入れながら歩いていった。静雄は、自分の部屋にあるカレンダーに赤ペンで丸をつけた。その日は、3月14日だった。今日は、幸せを運ぶ、バレンタイン。