やさしさ
『ごめんね』
そういって、手から力を開放する。
放たれた気は衝撃波となって障害物を粉砕した。
道を塞いでいた物体の欠片はきらきらとした光の粒子となって空中へと消えた。
「これで通れるね、先を急ごう」
一行はそうして出来た空間を通り抜けて、先へと進む。
「ケイオスさんってやさしいんですね」
「え?」
モモの言葉にケイオスは不思議そうな顔をした。
「唐突にどうしたんだい?」
「だって、敵対する人たちだけでなくグノーシスや壊してしまう障害物にまで『ごめん』って・・・」
そうモモは微笑んで言った。
「えっと、変・・・かな?」
少し困ったように答えるケイオスに、いいえとモモは首を振った。
「おかしくなんかありません。ただ、モモは嬉しくて」
恥ずかしそうに俯きながらモモはケイオスを眼だけで見上げる。
「嬉しい・・・」
ケイオスはモモの言葉を静かに繰り返した。
「命のない機械や無機物にまで心を配るだなんてそうそう出来るものでないと思います」
常の笑顔ではなく神妙な表情のケイオスに、モモは続けた。
「・・・そうかもしれないね。でも、僕の場合、やさしさとは少し違うかもしれないな」
今度はモモが不思議そうな表情をする番だった。
「意識を持たない機械や無機物にも造った者の意思が存在する、だからなのかな・・・
そのものの存在には何かしらの意味があって、意思を持たないものはそこに在るという事でしかそれを示せない、
それを終わらせてしまう権利なんてもの、僕にはあるとは思えないんだよ。ただ、それだけなんだ」
穏やかな声色でそう述べた。
(これは、やさしさと言うより、弱さ、だよ)
すると、
「被創造物も公平に扱うのは思いやることが出来るからではないのか。
ならば、やはりケイオスはやさしいのだろう」
言葉を捜していたモモの代わりにジギーが口を挟んできた。
それまで各々別々の会話をしていた一行だったが、いつのまにやら皆がケイオスとモモの会話に耳を傾けていたようだった。
「ずいぶんと難しいことを考えていらっしゃるのですね。ですが、私もケイオスさんはやさしいと思いますよ」
次々と皆に『おまえはやさしい』と言われ、ケイオスは戸惑うしかなかった。
すると、意外な人物も口を開いた。
「ケイオス、このような場合には『ありがとう』と答えるのが最適であると、以前ケイオスは私に指摘しました。
これは適用例外なのですか」
「!?・・・いいや、例外ではない、ね」
予想外の指摘に驚き、そしてKOS-MOSに向けて返答をした。
あらためて皆の顔を見回すと、
「ありがとう、でも、皆にいわれると恥ずかしいよ」
ケイオスは大して恥ずかしくもなさそうにそう笑顔で言った。
(やさしさは、弱さの裏返しでもあるんだ。
弱さが優しさに見えることも、優しさが弱さになることもある。
弱さとやさしさは表裏で、それ自体はいいものでも、悪いものでもないんじゃないのかな)
(でも、皆がそれを喜ばしく思ってくれるのなら、僕も嬉しく思える)
「ありがとう」