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白封筒記念日

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東京都池袋。店のあちこちでは、様々なホワイトデーのプレゼントの品々が並んでいる。又、お返しということもあり、そこら中、多数のカップルが出歩いている。そんな人混みの中、折原臨也は、人を掻き分けるように歩いていた。臨也の顔は、どんよりと曇っている。
「遅い…、遅すぎるよ…」
 今日は、3月14日。ホワイトデーである。時計は、午後5時を指している。依頼が長引き、遅くなってしまった。臨也は、2月14日に、平和島静雄にバレンタインのチョコレートを渡した。渡したというよりも、道路標識を振り回されたと同時に瞬間的に避け、静雄の懐に入れたのだ。きちんと3倍返し、とも言った。しかし、臨也の前に静雄は現れない。それに、もう夕方の時間である。臨也は、何度もケータイを取り出し、時間を確認する。どうしても諦めきれないらしい。
「シズちゃん、あげた人にお返しをくれないって、男としてどうだよ。」
 と、その時だった。20mほど先にあるコンビニから、静雄がレジ袋を片手に出てきた。金髪にバーテン服、とても分かりやすい。運が良かった。臨也の顔は、少し明るくなる。臨也はそれを合図にしたかのように、静雄の背中を目掛けて、思いっきり抱きついた。静雄は、即座に振り向く。
「シ~ズ~ちゃん♪」
「ノ…ノミ蟲!!」
 静雄の顔は、瞬時にして、怒りに満ちた表情へと変える。静雄は、臨也を自分の体から引き剥がす。
「ねぇ、シズちゃん。今日は、何の日だか知ってる?」
「あ?」
「2月14日のお返し、まだ貰ってないよ?」
「…」
 臨也の言葉に、静雄は黙ってしまった。表情も怒りに満ちてはなく、少し戸惑っているように見える。何かを隠しているかのように。静雄と臨也に、沈黙が訪れる。店の音楽と、人のざわつきが混ざって聞こえる。
「…貰った覚えは無ぇ…」
「またまた~、本当は貰ってるんでしょ?」
「てめぇに構ってる暇は無ぇんだ。お子さまは家に帰れ。」
 そう言って、静雄は速い足取りで、人混みの中へと消えていった。臨也は、静雄の姿が見えなくなっても、しばらくその場から動かなかった。お返しを貰えなかったショックで動けないのではなく、いつも攻撃してくる静雄が、何もせずに帰ったということにとても驚いていたのだ。臨也にとっては、何とも衝撃的な出来事だ。
「あの…、シズちゃんが…」
 臨也も、人混みの中を歩いて行く。一歩一歩が重い。頭の中は、ぐるぐるしていて、整理ができない。ひたすら、そのことについて悩む。だが、悩んでも全く答えが出ない。今の臨也には、周りの景色など、何一つ、目に入らなかった。

 そんなことをずっと考えているうちに、自宅マンションに着いていた。吸い込まれるかのように、自然に足が向かって歩いていたのだろう。臨也は、マンションを見上げると、出入り口近くにあるポストへと向かう。特に特別な物は入っていないが、この日は違った。自分の部屋の番号のポストを開けると、そこには綺麗にラッピングされた、プレゼント袋が一つ、ちょこんと入っていた。こんな物が入っていることは初めてであった。名前も何も書いていない。誰が入れたのかが分からない。しかし、臨也は少し考え、誰が入れたか分かった。臨也はそれを大事そうに持ち、エレベーターへと向かった。
 部屋に着くと、矢霧波江が珈琲を飲みながら、キッチンに立っていた。臨也はそんなことを気にせず、真っ直ぐソファーに腰をかけた。波江は、マグカップを手にしながら、こう言った。
「何ニヤニヤして、気持ち悪い。」
 臨也は、正面にあるテレビの電源を点け、ポストに入っていたプレゼントの袋を開けた。
「ははっ、波江さんはするどいねぇ♪」
 臨也は嬉しさのあまり、表情に出てしまっていた。テレビでは、ニュースキャスターが、ホワイトデーの特集を紹介していた。

 その頃静雄は、ロッテリアで一服していた。やけに顔を真っ赤にしながら煙草を吸っていた。
「…ノミ蟲、さっさと気付けよ///」

「やっぱりシズちゃんは可愛いなぁ♪」
 プレゼントの袋の中には、真っ白なマシュマロが何個も入っていた。一つ一つが柔らかい食感を与えてくれる。そのプレゼントの袋は、ほんのり煙草のにおいがした。
作品名:白封筒記念日 作家名:雪月花