焼失
機動要塞が銃口をこちらへ向ける。先端から煙が吹き出し紅の弾丸が飛び出すまでが酷く遅く見えた。
ライフカウンターの数字は動き、何本もの針が心臓を捉えようと蠢いていた。既に痛みなど通り越し、左胸が無性に熱いとすら感じる。熱気の迸るこの感覚にどこか懐かしさを覚えたが、朦朧とする意識の中で記憶を辿ることは出来なかった。ただ、熱い。身体も意識も炎に包まれていくようだ。
―――否、胸元からは本当に炎が上がっていた。
どういうことだ。状況を把握しようとする脳内に何かの声が響く。『悪魔の力に身を委ねよ、さすればお前とお前の仲間を助けてやろう』と。
仲間。隣で戦っていた龍亞と龍可はライフを極限まで削られ、既に虫の息だった。自分があの強大な敵と立ち向かえる最後の希望。あの敵を倒し、ネオドミノシティを―――そして遊星の命を救いたい。強い感情が渦を成し、炎と融け合って激しく火花を散らした。
『そう、その意気だ。我が力、存分に使うがいい……ククク……』
悪魔の囁きが耳元で響く。瞬間、心の中に何かが流れこんで来て、自我の境界線が消えてゆくのが分かった。その燃えるような感覚、思い出した――――嘗て紅蓮の悪魔と呼ばれた邪神のものだ。レッド・デーモンズ・ドラゴンの中へ吸収した筈の強大な力が、封印から逃れ始めている。
魂の支えともいえる龍を失い、消耗しきった己では、最早制御することはかなわなかった。乗っ取られる……そう思ったときにはもう、ジャック・アトラスとしての意識は炎の牢獄に囚われ、悪魔としての"もう一人の自分"が外へ顔を出していた。
「………貴様に本当の絶望を、拝ませてやろう」
心を失った機械の皇帝と、魂を失った伝説のシグナーと。光なき戦いが幕を開ける。