二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【腐向け】猫舌と舌使いの関係

INDEX|1ページ/1ページ|

 
猫舌と舌使いの関係


 注意深くマグカップを口元によせていた東海道新幹線は、先ほどからぶしつけに己を見つめている山陽新幹線の視線に眉を寄せた。
「一体なんだ」
 どうせ下らない答えがあるだけだろう、と。半ば諦めの気持ちを交えつつも、彼は強く不快の念をこめ、面白そうな笑みを蓄えた顔を睨んだ。
 いやあ、と。糸のように目を細め、山陽新幹線は笑う。その表情を見た瞬間、東海道新幹線は自らが失敗したことを悟った。そもそも、にやにや笑いに反応してはいけなかったのだ。
「この前ネットで読んだんだけどね。猫舌の人っていうのは、舌使いが下手なんだってさ。ライターはホントかどうかわかんないっていってたけど、やっぱホントっぽいなーと、アンタ見てるとおもうわけよ」
 さっきからぜんぜんへってないよねー、それ、と。マグカップを指さして笑う姿に、東海道新幹線の眉間には深くしわが刻まれる。
「何だそれは」
「だって、東海道ちゃんさくらんぼの茎結べない人だし」
 あってるあってる、と、けらけら笑うのを睨みつけながら、東海道新幹線は手元のマグカップを一気にあおった。
「つっ……!」
「って、ちょっと!」
 むせかえり、マグカップを取り落とすさまに、おおあわてで山陽新幹線が立ち上がった。そして、デスクをまわり、東海道新幹線のそばへと移動してくる。にじんだ視界でその姿を捉え、必要ないと手をふるも、そんな場合じゃないでしょうと手を伸ばしてきた。
「火傷した?」
 ゆびさきでがっしりとあごを捉え、山陽新幹線は眉を寄せる。
「……」
 大丈夫だという主張に対し、いいから舌を見せてみろと彼は強く言った。このままでは手を放すことはないだろう、と。そう悟った東海道新幹線は、しぶしぶながらも舌を出してみせる。
「あー……ちょっと赤くなってるね。アンタ熱いのも冷たいのもだめなんだから気をつけないと」
 だれのせいだ、と。睨みつけるも、どなりつけるも、今の東海道新幹線の姿勢では難い。
「まあ、でもこれくらいなら」
 当然だと言って、とりおとしたマグカップの顛末を確認しようとしたところだった。思いのほか真剣な表情で己を見ていた山陽新幹線の顔が不意に近づいた。そして、舌先に何か生ぬるいものが触れる。
「――!」
 瞬時に東海道新幹線の右手が拳をつくった。そしてそれは勢いよく持ち上がり、見事な角度速度をもって山陽新幹線のボディにヒットする。
「貴様、どういうつもりだ!」
「ってー……ちょ、マジで殴るかー?」
 東海道新幹線は蹴り飛ばす勢いで椅子から立ち上がると、腹を抑えてうずくまる山陽新幹線を見下ろした。仁王立ちの姿勢と微かに震える拳が、返答次第で二発目三発目が出るであろうことをわかりやすく表している。
 涙目で、山陽新幹線は東海道新幹線を見上げた。
「そんなにひどくないようだから、舐めとけばなおる――」
 東海道新幹線は大きく息をすった。
「そんなところを舐める馬鹿がどこにいる!」
「はいはーい、こ……くっ、手じゃ、ないんです、か……」
 二十兆円男の迫力の怒号に対し、頭をかばいながら明るく宣言しようとしたところ、実際飛んできたのは足だった。
「そんな下らない民間療法を試すヒマがあるなら、さっさと水の一杯も持ってきたらどうだ」
 うずくまり、痛いよう辛いようと泣きごとを漏らす山陽新幹線を、東海道新幹線は冷たい目で見下ろしていた。
「あのね……今、おもいきりみぞおちに入ったんだけど……」
「身から出たサビという言葉を知っているか」
「ちょ、やめて。足はやめてくださいお願いします」
 トントンと床を軽くたたく革靴に気づいたか、大げさな悲鳴とともに山陽新幹線は東海道新幹線から距離をとる。
 ひーひーと我が身をかばう情けない姿を、東海道新幹線は無言で見下ろしていた。そして、濃緑の制服からぱんぱんとホコリを払い落とすのを確認し、再度口を開いた。
「さっさといけ」
 世にも情けない表情で、山陽新幹線は東海道新幹線をみた。何やら言いかけるも、腕組をし目を細める東海道新幹線のさまから感じとれるものがあるのか、ただ深くためいきをついただけだった。わざとらしいしぐさに、東海道新幹線の眉間のしわがいよいよ深くなる。
「あーっとわかった、水、水をご所望ですね!」
 持ってくる、持ってきますから! と。さらに言葉を重ねようとした東海道新幹線をさえぎるようにし、山陽新幹線は両手をあげた。そして、次の怒号が来る前にとばかりにくるりときびすを返す。
 何かリクエストはあるかとの言葉には、可及的速やかにとだけ。はいはい、返事は一度だ! と。よくあるやりとりと騒がしさをもって、山陽新幹線が部屋を出ていく。明るい茶髪が扉の向うに消えるのを確認し、東海道新幹線は再度椅子に腰を下した。
 奇跡的にマグカップがこぼした中身は少ない。デスクの上に、ほんの小さな水溜りができている程度だった。
「まったく下らないことを」
 声に出してつぶやき、彼はハンカチで制服とデスクをぬぐう。白い布地が茶色く染まった。しみぬきが必要そうなさまに、彼は眉を寄せた。そして、不意に顔を紅潮させた。いきなり近づいて来た髪の色と似ているといえば似ている。まったく下らん、と。再度、今度は小さくつぶやくと、ぐっと汚れた布を握りしめた。


fin.