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secret mind 2

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 平和島静雄は、真っ直ぐだった。


「は…?」
 ぽかん、とする男を置いて、ぱたぱたと走り去って行く。
 手元に残るのは薄桃色の便箋のみ。その意味がわからないほど、鈍感ではなかった。
 自慢にならないが初めての経験だ。 まさか己の身に起こるとは思っても見なかった。高校生ともなれば色づいた話の一つや二つあってもおかしくない。
その証に、ひっきりなしに好意を寄せられている奴も――…
 浮かびあがった顔に、眉を顰めた。

 ―――アイツに知られでもしたら何を言われるか。
 いや、奴の事だからとっくに気付いてこちらを窺っているのではないか。

 辺りを見渡すがとりあえず人影は見当たらない。
 しかし潜む場所など学校内では山程ある。そもそも、これ自体からかわれただけという可能性だって十分過ぎる程考えられた。
 寧ろその方が自然だ。…自分ようなものには。
 やはり帰るかと思うものの、「もしそうだったら」と相手の存在を考えるとそれも躊躇ってしまう。

「平和島くん」
 控えめな少女独特の声で呼ばれ振り返る。
「来て…くれたんだ」
 ほっ、と安堵が聞こえてきそうな風情で頬を染めた今朝の少女が立っていた。
「あぁ。まぁ」
 無視するわけにはいかねーし、ぼそぼそと目を逸らしつつ告げる平和島に「やっぱり」と顔を綻ばせ俯いていた顔を上げた。
 あまり向けられたことのない種の表情にたじろぐ。
 なんだってそんな柔らかな笑顔をしているのか。嬉しそう、とも見えるまっすぐな目を真正面から向けられている。
「周りからすごく恐がられてるけど、そんなことない。優しいね」
「な、…んなこと、ねぇ」
 昔からこの力と気性のせいで人は離れていくばかりで、面と向かって微笑まれることも、褒められることにも慣れていない。どんな顔をしていいのかわからず、辺りに目を彷徨わせた。
「あの、―――」
 意を決したような真剣な眼差しに、喉を上下させた。



 目の前の少女は、素直にかわいいと思える。
 笑った顔には心臓が騒ぐ、これが恋なんだろうか。

 ―――俺は人間が好きだ。人間を愛してる

(っ! どうして、奴が…)
 不意に浮かんだ顔に怒りが一筋浮かび上がる。
 よりにもよって何故アイツが――…こんな時に出てくるのも全ていつもいつも理解出来ない戯言ばかり言っているからだ。
 胸の内で結論付け、ふつりと沸き上がった火が胸をじりじりと焦がす。
 あいつを考えると胸の奥から衝動が暴れ出しそうになる。
 制御などできようもない。あの男だけは、絶対に、自分がケリをつける。

 出会った瞬間からはじまった。
 眇めた瞳をみた瞬間、沸き立つ衝動に突き動かされるままに力を奮った。普通の奴ならそれで終わりだ。二度と正面から挑んでくるような奴はいない。それでも奴は、俺の前にムカつく笑顔を携えてやってきた。
 あいつの赤が獰猛な光を帯び、形のいい唇から反吐が出る言葉が紡ぎだされる。
 初めから、別格だった。
 あれ以上に、ムカつく存在はいない。
 ――あいつ以上に俺を波立たせるものを知らない。


 ざわり、と背筋をのぼる感覚に窓の外に視線を投げる。瞬間、屋上の一角に目を囚われた。
「っ!」
 フェンス越しに黒髪が風に揺られている。こちらに気付かれていないと思っているのだろう、その顔にいつもの嫌味な笑みはなかった。
 此処からでは人を弄するうざったい言葉も聞こえない、ただ静かな折原を見るのは初めてだ。自分の前で奴は無防備な表情を晒すことはしない。
 こう離れた距離では何よりムカつくあの戯言は聞こえない。
 しかし、
「―――んの野郎…」
 目にした瞬間、全て染まっていく―――
 自慢ではないが、両目は2.0だ。だから鮮明に表情さえも克明に映し出す。その赤の瞳とぶつかった瞬間、驚いたように瞠った赤から逸らすなど出来はしない。脳内全てが沸き上がる衝動に塗り替えられていった。
 びきびき、と青筋をたて目を吊り上げた静雄にそれでも逃げず、「平和島くん…?」と控えめに声をかける少女。しかし、さっきまであれほど占めていた隣の少女の声も耳をすり抜けて行った。

 なにもかも、全てが遮断され視線の先にいる相手に神経が集中する。
 まさか気づかれると思っていなかったのか一瞬瞠った表情は、既にお馴染みの厭らしい笑みを浮かべていた。
 皮肉げにあげられた唇が自分の忌避する呼び名を象るのを見て、傍にあった机がめきり、と音をたてて割れる。その様子に「きゃあ」と悲鳴をあげて逃げて行く少女がいたのだが、平和島は気が付かなかった。彼の目には既に見えていなかった。

 ――ただ一人の存在が、すべてだった。





「池袋にくるなって言ったよなァ? いーざーやーくんよぉ…」

 げ、と小さく呟かれた声もしっかり聞き取り更に青筋が増える。

「君に用はないんだけど。シズちゃん」
 心底嫌そうな顔で振り返ったそいつを見た瞬間、ぶつぶつと音をたてて切れていく。
「い―――ざ――――やァァアっ!!!!」



 平和島静雄は真っ直ぐだった。
 真っ直ぐな彼は、―――――…


作品名:secret mind 2 作家名:鏡 花