King has wolf's blood
切れた頬の傷から赤い血が流れる。そんなに深くはなさそうだが、血がだらだらと大袈裟なほど流れる。一体何してくれるんだ、という目で目の前にいる百蘭を見る。白い彼はその手に鈍色に光るナイフを持っている。彼はにこりと笑うが、俺には胡散臭い笑みにしか見えない。ていうか、お前は何故俺の上に乗っかっているのか、そのへんから是非ともお教えいただきたい。
ぬるりと百蘭の手が俺の傷に触れる。かすかな痛みに無意識に顔を顰めてしまうと、百蘭が楽しそうに笑った。このドSめ。
「真っ赤な血だなー」
「そりゃそうでしょう」
「僕にも赤い血が流れてるんだ、って言ったら綱吉くん、信じてくれる?」
「あなたは何ですか、自分から化物になりたいのですか」
いっそ本当の化物ならもっと楽だったかもね、と百蘭は笑って言ったが、俺は特に触れなかった。興味がないのだから。
自分でも右頬に触ってみる。忌まわしき血が掌にべったりついた。この血のせいで、XANXUSではなく俺がボンゴレ十代目になった。皆、同じ赤い血だというのに。
「不思議だね。同じ赤い血なのに、君の血は特別なのだろう」
「そう、人は言いますね」
「ああ、不公平だね!神様はとっても不公平だ!僕には王様の血をくれないで、望まない綱吉くんにあげるのだから!」
はて。王様の血にはどんな違いがあるのだろう。それは肉眼では見えないのだろう。ならば、俺の血が王様の血だという証拠もどこにもありはしないのに。
「ねえ、綱吉くん。君の王様の血を飲めば、僕も王様になれるだろうか!この甘そうな血を体内に入れれば、僕は偽りの王から本当の、本当の王様になれるだろうか!!」
そう言って、百蘭は俺の右手を恭しく取ってぺろりと舐めた。ざらざらした舌が俺の掌についた血を剥ぎ取る。何度も何度も舐めて、すっかり俺の手から全て血を舐めとった。俺はそれを始終冷めた目で見ていた。
「本当の王様は孤独だ。君だってそうだ。君の周りにはいつも人がいるけれど、君は天辺にいなければいけない。たくさんの笑顔が溢れているけれど、本当はいつだって綱吉くんは独りだ。君の相棒はどこにもいないし、君の対もどこにもいない」
「では、偽りの王様。あなたは今まで独りではなかったのですね」
さあ、どうだったかな、と誤魔化されてしまった。なんと狡い人だ。
「君の血には、超直感が宿っているのだろう?ならば、僕ももう超直感が宿ったりしないかな。ああ、それとも君の血を一滴残らず飲まなきゃいけないのかな」
何を言う。空気に触れた血はただの鉄臭い液体でしかない。そんなものを飲むなんて、狂人としか思えない。そう頭の中で考えていると、失礼なこと考えてない?と百蘭が聞いてきた。彼もなかなかの勘をしている。
「あーあ。王様になりたい。本当の大空になりたいな。そうだったら、きっと世界は違っただろうに」
彼も何かを失くしたのかもしれない。けれど、王様になったからって得られるものはあまりない。得たものもあるが、失くしたものもある。ただ、俺は王になって得るものを選んだだけだ。代償が自分のことなら、別に構わないと思ったのだ。
「・・・・・・あなたを本当の王にはさせませんよ。もう、俺以外の誰も独りにはさせませんから」
普通のことを言ったつもりだったけれど、百蘭は目を丸くしてそして敵わないな、と呟いた。
作品名:King has wolf's blood 作家名:kuk