年越しそば。
「いないから驚いたよ」
年越し蕎麦が無性に食べたくてコンビニに購入してきたところ、部屋の真ん中に紙袋を抱えた臨也さんが鎮座していた。僕の部屋なんですが、なにをしてるんですか、と言う気力も起きない位自然体である。
「鍵は?」
「ロックツーロックやサムガードが付いてないドアなんて、朝飯前だよ。……あ、それカップ蕎麦? そんな身体に悪いものは良くないよ、ちゃんと二八蕎麦買ってきたから」
ごそごそと紙袋から蕎麦を取り出せば、僕の意見なんてまるで聞かずに台所へ向かう為か立ち上がった。傍若無人に振る舞われるのも気分が悪いので、腕を掴めば嬉しそうに臨也さんは笑った。
「全く可愛いなぁ、帝人君は。一人ぼっちになるのが寂しい、って言えばいいのに」
「違いますよ! で、なにをしにきたんですか」
「とりあえず蕎麦食べようよ」
今更追い出せる気もしなかったし、普通の蕎麦を食べたかったのも本当だから閉口しておくのが得策と手を離した。
「短くて、食べやすいですね」
「嫌味を言わないでよ……」
自信満々に茹でにいったのだから、よっぽど上手く作れるのかと思えば。時間を間違えたのか、ぶちぶちと汚らしい麺が入った狐蕎麦が出てきた。これは酷い。箸よりフォークやスプーンの方が食べやすそうなレベルである。
「ダシは美味しいですよ。あぶらあげも」
「麺を誉めてよ、麺を!」
フォークにくるくると巻き付けて、臨也さんは溜息を吐いていた。寧ろ溜息を吐きたいのはこっちだ。
「だって、ふやふやじゃないですか……」
「身体にいいし、消化もいいから問題ないんじゃない?」
注意して食べないと口の中に麺が入らないから、喋りも怠ってしまう。別に話す内容もない僕としては問題はないのだが、それが臨也さんには不満のようで。目の前からにゅ、と箸が伸びてきてあぶらあげをかすめ取られた。
「最後に食べようと思っていたのに」
「好きなものを最後に食べるなんて、凄く可愛いんだけど……って怖い怖い!」
「言いたい事はそれだけですか?」
「俺が悪かったから、箸を向けないで!」
眼前に箸を突き付ければ、腕を上にあげて降参のポーズを取られた。仕方ないなぁ、と思いつつ再び蕎麦を食べるのに専念する。
「この後さ、初詣行こうよ」
「まだ年越していませんよ?」
「除夜の鐘を鳴らすために行くんだから、今年の内に行かないと」
二人分の器を手に持って台所に持って行った臨也さんは、がちゃがちゃと音をたてて洗い物を始めていた。数少ないどんぶりだから、割れられないといいのだが。
「大丈夫ですか」
「俺の心配をしてくれるの? 嬉しいなぁ」
「いえ食器の」
「ちぇ」
洗い終わったのかシンクへ食器を雑に置いた臨也さんは、僕の横に放置してあった紙袋から着物を取り出した。
「……なんで女性物なんですか!」
「帝人君にはこのくらい綺麗な色合いをしている方がいいって!」
嬉々とした表情で、鮮やかな色合いをした晴れ着を見せてきたものだから、頭が痛くなった。