セカンド・バタフライ
ユーリユーリ、と元気よく駆けてくるカロルにユーリは振り返ってどうした、と柔らかい表情で迎えた。宿主と喋りこんでいたユーリは手を軽く宿主にあげて、会話を中断させる。宿主はぜんぜん構わないというふうに、人当たりのいい笑顔をユーリに見せた。
ユーリはそのままカロルの目線に合う様に片膝を下ろして話を始める。この、相手の目線に合わすのをユーリは意識しているわけではなくて無意識にやってのけているようだった。だから彼は誰とでも当たり障りなく、むしろ好意を持って話せるのね、とジュディスはひとり納得する。
カロルはユーリに紙を差し出してなにやら話し込んでいた。そのうち紙とペンをユーリに託し、カロルがまた元気よく駆けていくのをジュディスは眼で追い、そしてユーリへと移す。
宿の待合所のテーブルに腰をかけて渡された紙とにらめっこをはじめ、ペンを回しながら何かを考えているようだった。ここでも剣を回すように、ペンもくるくるとユーリの指の上で踊っているのを見て、ジュディスはおかしくて頬を緩ませた。
(あれは本当に、癖なのね)
紙に何かを書き込むユーリの前に突然レイヴンが姿を見せた。なにやら会話をしているようだったけれどジュディスには聞こえなかった。
レイヴンはずっと作業をするユーリの傍で立ってそれを見ていたが、そのうちユーリの正面の椅子に腰掛けて、じぃっと作業をするユーリを見ていた。会話はなく、黙々とペンを紙に走らせるユーリ(もしくはその紙)を見ているようにジュディスには見えた。
(あれは見つめすぎじゃないかしら・・・・・・あら?)
突然レイヴンが動いた。右手をユーリの顎まで持っていって、くい、と顔を上げさせたのだ。
あまりにも自然な動作でレイヴンは顎を引き上げ、ユーリは抵抗もなく顎を引き上げられていた。
沈黙。
しばらくしてからユーリが何かを言って、レイヴンは軽く笑うとすぐに手を離した。何かを誤魔化すように笑うレイヴンの声はちゃんとジュディスの耳まで届く。
(・・・・・・・・・。)
ジュディスはふう、とため息に似たような息を漏らして、その一連の出来事を見せるように開いていた窓から視線を逸らし、空を見上げた。
遠くでバウルの声がする。それにジュディスは楽しそうに、そうね、と笑った。
セカンド・バタフライ
(確かに気持ちは分かるとは言ったけど、ああも無意識だなんて)
お題配布元:不在証明さま
作品名:セカンド・バタフライ 作家名:水乃