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正月、追手内家にて

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「…お前、甘酒で酔っ払うなよ…」
酒じゃねーんだぞ、それ、と。
溜息と共に吐かれたその言葉は、相も変わらず己の腰に抱きついている相手に届いているとは思えなかった。


事の起こりは数時間前。
新年の挨拶に来た弟子を迎え入れて、母特製のお節やら雑煮やらを振舞って。
そこまではいい。
弟子がお年玉の風習に戸惑い遠慮してはいたものの、結局貰う流れになり、恐縮したりはしていたが。
まったりゆったり和やかに。
穏やかな時が、緩やかに流れていった。
だが。
お正月のお約束とばかりに、食卓に甘酒が並べられていたのがいけない。
しかし、それを食卓に並べてしまった母も、それをうっかり飲んでしまった弟子も、それを飲んだ弟子の豹変っぷりを予測出来なかった師のいずれにも、非は無いだろう。
ただ、結果としてこうなってしまっただけで。
………ともあれ。
「ししょおぉ~~~っ!!!」
「あーはいはいはい」
現状として。
「なんでいっつも私より他のれんちゅーをゆーせんさせるんですかーーー!!」
「えー………」
冬の定番、炬燵を出した追手内家居間にて。
「つーか狭いんだけど」
「答えてくださいよー!!」
炬燵に足を入れている洋一の腰に、寝っ転がった状態で抱きつきながら師への不満を吐き出す努力がいる、と。
因みに足の間に身体を入れる形で、炬燵に身体の下半分を入れている為、当然狭い。
そうは言ってもこの炬燵は大きめなので、努力が洋一と同じ面にいてもそれ程きつくはないのだが。
洋一としても一応言ってみただけなので大して気にもせず、溜息一つ零して努力に目を向ける。
改めて様子を観察。
顔赤い。呂律怪しい。腰を抱く手が離れる気配は無い。
しかしずっと炬燵入ってんなぁ、熱くねーのかこいつ、と思いながらもそれを言っても意味は無さそうなので、別の言葉を口にした。
「………超うっとーしい」
「ひどいですよーーー!!」
ぼそりと呟いた洋一の言葉に、脊髄反射の如くすぐさま反応してぶんぶん首を振りつつ嘆く努力。
正直洋一としては、なんだこの状態、なんて思う訳だが。
「あらあら、仲良いわねぇ」
「しかし甘酒で酔っ払うとはなぁ。いやはや、珍しい子だなぁ」
追手内夫妻はほのぼのとそんな様子を眺めている訳で。
天然気味なのはいつもの事なので、洋一もそんな両親をスルーした。
いちいち突っ込んでもいられない。
「ししょおぉ~~~!!」
「あーはいはいはい」
何度目かの意味の無い遣り取り。
いつまで続けるんだこれ、と内心溜息吐きながらも、付き合ってしまうのは何故なのか。
甘酒の所為なのか、洋一の腰を抱く努力の力はいつもの馬鹿力とは比べ物にならない位に弱く、ぶっちゃけ洋一からしてみれば適度な力加減になっていて。
命の危険も無ければ気絶もしそうにないし、うだうだ言ってはいるが、結局その内容は洋一に甘えたい努力の願望であって、最早愚痴とも言えぬもの。
…まぁ、現在進行形で甘えまくっている今の状態は置いておくとして。
正直な所、普段自身の願望やら我侭やらは言ってこない弟子の本音である。
洋一としても、悪い気はしない。
「ですからっ!!私をししょーのいちばんにしてほしいんですよししょー!!」
「いちばんっつってもなー」
願望を口にしつつ、訴える様に腰というか腹にぐりぐり頭を押し付けてくる努力の髪を宥める様に撫でながら、ぽりぽり頬を掻きつつ。
「…因みにお前のいちばんって誰よ?」
軽い気持ちで放たれたその問いに、
「もちろんししょーですっ!!」
勢いよく顔を上げ、にぱっ、と擬音が聞こえる様な全開の笑顔を見せ、迷う事無く言い切った。
「躊躇とか全くねぇのな、お前…」
予想通りの答えに苦笑する。
実際そこで迷われたらちょっとヘコんでいたとは思うが、勿論それを表に出す事はせず。
「もちろんですっ!!」
笑顔のまま、ごろごろと猫の様に擦り寄る。
脇腹辺りにぐりぐり頭を押し付けられて、こそばゆいものの、痛くはないのでそのまま放置。
「まあまあ、努力ちゃんたら甘えん坊さんねぇ」
「はっはっは、まぁ良いじゃないか、まだ子供なんだから」
ほのぼのほんわか和やかに。
努力を見ながら微笑ましそうに会話する両親に、動じねーなぁ、と半ば感心しつつ。
「ししょおぉ~~~っ!!!」
「はいはい」
相変わらず甘えて懐いてくる努力の頭を撫でる洋一なのだった。



それから。
「………あの状態でも努力返しは有効かー………」
「あああああっ申し訳ありませんししょー!!」
あのまま寝こけた努力に、お約束の如く努力返しを受けて壁にめり込んだ洋一である。
その音に目を覚ました努力は己のしでかした事を察し、謝り倒している訳だが。
「…取り敢えず助けてくれる?」
「ああっ気付きませんで!!」
めり込んだ壁から引っ張り出されながら、危機感は無くとも警戒はするべきだったなぁ、と思いつつ。
正直宇宙一ついてない自分にはいつもの事なので、まぁいいや、とあっさりと打ち切って。
「洋ちゃん大丈夫ー?」
「まぁいつもの事だしな。大丈夫だろ」
「この両親…」
「ううっ、すいません師匠~~」
「まぁいいけど…。お前、何も覚えてないだろ」
「うっ…!?いや、その、あの………すいません」
「別にいーけどね…」
覚えていたら、絶対に今以上に挙動不審になるか、もっと大袈裟に謝ってくるに決まっている。
しっかし、何で甘酒でああなるかねー、と内心で愚痴を一つ。
まあ、覚えてても面倒か、と溜息を吐く洋一に、努力が身を竦める。
その様子にまたやれやれ、と呆れた様に息を吐き。
「もーいーから、炬燵入ろーぜー」
冷えちゃったよ、と言いながら、炬燵へと。
慌てた返事と共に努力もやってくるが、
「あら、努力ちゃん、そこでいいの?」
「はい?」
「遠慮しなくてもいいぞー」
「え、あの…?」
「こいつ覚えてないんだからその話やめてよ、ママもパパも」
洋一の入った面の隣に入る努力に、善意なのか揶揄いなのか、そんな事を言う両親に溜息を零す洋一。
それらの台詞や様子に思わず引き攣りながら、
「あの………私、何かやらかしましたでしょうか!?」
「言葉がなんかおかしいぞ…。いーから気にすんなって」
「ですが…」
「あーはいはい」
尚も言い募ろうとする努力の言葉を遮る様に、先程散々繰り返した遣り取りの台詞を口にし。
ついでとばかりに頭を撫でて。
「餅でも食おーぜー」
「………はい」
真っ赤になって大人しくなり、なんだか頭から湯気とか出てそうな努力を置いて。
洋一がぽつりと漏らす。
「しっかし腰抱いたまま寝たくせにアレは出るのかー…。あのままだと“いちばん”はまだ無理かなー」
「はい!?」
「あぁ、うん、なんでもない」
「なんなんですかぁーーー!!!」
困惑の極みに加え、己を苛む何だか解らない焦燥に、衝動のまま叫ぶ努力だった。



後日。
いつものノリで熱血気味に抱きついた師の身体の感触やら体温やらに、この日の事が思い出されてしまい。
努力が頭を抱えたり、得られなかった答えに悩んでみたり、色々と吹っ切って師へ猛アタックを開始したりする事になったりするのだが…。
それはまた、別の話である。
作品名:正月、追手内家にて 作家名:柳野 雫