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アニマ 0+1

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六道骸が交通事故に遭った、と聞いたのは最後に話をしてから数週間経ってからだった。俺は俺で、そして彼は彼で忙しかったのだ。それに俺たちはもう中学生や高校生ではなくなっていたので、同じ人物と顔を合わせる機会がどんどんと減っていたことも理由の一つだ。
 郊外にある美しい屋敷に向かって車を飛ばしながら、彼の生を思った。幸い命の危険はないと聞いていたが、まだベッドから起き上がらないという。俺は季節の花を花束にして、なかばそれを彼の同居人に向けて運んでいた。
 秋に近づく季節は、黄金色に止まっている。カーブが続く海岸線は、なにかをえぐるように俺を上へ上へと押し上げた。海を臨む美しい屋敷は、周りの家と同じように老いて見える。
 秋らしく葉の散る庭先に着くと、扉から女性が出てきて俺を迎える。
「ボス、いらっしゃい」
 女性がほほえむ。花を渡すと、少女のように綻んだ頬を花に押し当てた。
「クローム、元気だった?」
 俺はいつの間にか習慣すらイタリア化していたので、彼女をそっと抱きしめて挨拶のキスをする。彼女はそれを自然に受け取る。
「きれい。きれいな花束。ありがとう。骸さまも喜ぶわ」
 俺は彼女に誘われて、彼の部屋へと向かう。薄暗い廊下。開いた扉から漏れる柔らかな日差しが壁に反射することで、辛うじてすべてのものが輪郭をもっている。前を歩く彼女の白い肌が、暗がりに溶けてしまいそうに透き通る。
 この家は苦手だった。それは彼と彼女がいつも死んでいるように見えるからだった。
「骸様、ボスが来たよ」
 彼は俺が思ったより衰弱はしていないみたいだったし、各方面からのお見舞いの品がきちんと、整然と、すこし不器用に並べられていたので、なんだか安心してしまった。きっと彼の家族がそうしたのだろう。
「おや、珍しい」
「思ったより元気そうだ。骸」
「ええ、ちょっと疲れているだけです。よっこらせ」
 クロームが彼の体を申し訳程度に支えて、彼が起き上がる。まったく不自然さはない。彼はすぐに良くなるだろう。
「じゃあ、ボス、お茶持ってくるね」
 彼女はドアを静かに閉めて、部屋は彼と俺との二人になった。
「僕はもう大丈夫だし、こんな傷など幻術使えばどうってこと無いのですが、クロームがじっとしてろと言うので」
「まぁ、クロームも嬉しいんじゃないか。お前が弱っているところなんてそんなにみられるもんでもないし」
「まぁ、ねぇ……感謝はしてますよ。良い娘に育ちました」
「お、年長者らしい発言。でも、もう彼女じは娘じゃないよ、立派なレディだ」
「からかわないでください」
 彼が笑うので、俺は少し悲しくなった。彼が弱る姿というのは酷く痛々しい。彼の手を取る。傷などまったくない、きれいな手だ。
「お前、交通事故とかバカみたいだな」
「失礼な。相手が悪い交通事故ばっかりは防ぎようが無いでしょう」
「まぁ、そうだけど。俺、お前が死ぬときはもっとドラマチックなものだと思っていたよ」
「綱吉くん、僕はまだ死んでませんよ」
「知ってる。でも片方の目が見えなくなった」
「おや、早耳ですね」
「しかも右目とか。お前仕事する気あるのか」
「ははっ! 最初から無いに決まってるでしょう。それに、右目が無くなったわけではないですから、術は使えます」
「っていうかお前その目見えてたのな」
「失礼な。今だってちょっと術を使って右目を作れば見えますよ」
「こんなこと言いたく無いけれど、ボンゴレの技術を使えば……」
「君は本当に組織の事がだいっきらいですね!」
 彼は、「ははは」と豪快に笑った。
「心配はいりませんよ。僕は右目がどうしても必要なほど一人では無いですから」
「そうか」
 俺はそう言いながら、彼に当てられたお見舞いに目を滑らせる。チョコレート。チョコレート。チョコレートばかりだ。
「お前は愛されているな、骸」
 彼は少しほほえんだ。首をかしげたので藍色の髪が重そうに揺れた。彼の手を離す。それから高級そうな包み紙に手を這わせる。厚ぼったい、もったいぶった質感が美しい。
「そうですね」
「あぁ、それで、俺、お前に聞きたいことがあったんだ」
 俺はさっさと本題を切り出してしまおう、と思った。
「なんですか?」
「なんで俺にあんな話を俺にしたんだ」
 俺は少し恨みを込めてそう訊ねた。それが残酷な問いだって事はよく知っていた。そして多分、その答えも知っているからだ。
「綱吉くん、僕はいつか死ぬんです」
「それは、みんなそうだ。みんなそうだよ、骸。お前だけが特別な訳じゃない」
 言いながら、俺は酷く泣きたい気持ちになっていた。
「綱吉くん、でも僕は、もう望むものなんて無いんです。僕はもう愛することを知っているから、救いなんていらない」
「そうか」
「まぁ、たかが交通事故でこんなにセンチメンタルになる必要もないでしょうけれどね」
 彼がおどけてそう言うので、俺は笑った。タイミングを少し前から読んでいたのか、扉のノックの音が聞こえた。それはそれは幸福な音だった。
「ボス、骸様、お茶だよ」
 トレイを持っている彼女の為に扉を開けよう。窓の外では、秋の色に染まった庭と、大きな海が絵のように凪いでいた。
 お茶を飲んで、あまり長居をしても、と切り出して、待たせていた車に乗り込んだ。世界平和でも歌いたくなる気分だ。日がゆっくりと地平線に向かって足を浸し、空を橙色に染めてゆく。
「きれいだなぁ」
 ぼんやりと呟く。暖房の効き始めた車内で、俺は早くもとろとろと眠りに落ちそうだったので、少なくとも彼にとってもまた世界が美しいものでありますように、と祈った。
作品名:アニマ 0+1 作家名:ペチュ