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世の中は不公平になるようにできている(side:n)

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「はあ」

溜め息を吐き出した。
もう何度目になるかは分からないが、少なくともボクの中にある幸せは全て逃げ出す位の回数であることは間違いない。

(どうしてこんなことになったんだろう?)

ベッドに寝転んで無機質な天井を眺めながら、答えの出ない問題をぼんやりと考える。


世の中は不公平だ。

超高校級の"幸運"として、希望ヶ峰学園への入学を許されたボクは、まさに"幸運"そのものだったんだろう。
けれど、"運"なんてものはてんで当てにならない。
実際、ボクが今現在巻き込まれているこの状況は、"不運"以外の何者でもないのだから。
"幸運"として選ばれなければ"不運"にならなかっただなんて、なんて出来の悪い冗談なんだろう。

「勘弁してほしいよ・・・」

あまりの理不尽さにやりきれない。
夢であればいいのに、と思う。でもこれは確かに現実で、逃げようのない事実。
どうすればいいのか、なんて分からない。考えれば考える程に悪い方へと誘導されて行く思考に歯止めをかけたくて、ボクは無理矢理、別のこと――この歪んだ学園生活を共にする仲間を思い浮かべることにした。少しは気がまぎれるだろうと思ってのことだったが、これは間違えた選択だったことに、すぐに気付くことになる。

160cmという高校生にしては低い身長のボクでは見上げなければいけないその人は、正に完璧だった。
さらさらとした金色の髪に、薄い青色の目。整った顔立ちに、すらりとした身体。
そして超高校級の"御曹司"。
天は二物を与えず、なんて言うけどそれはとんだ嘘だ。
現に目の前の人物は二物といわず四物も五物も持っている。もしかしたらボクに与えられるはずのものまで彼に吸い取られているんじゃないだろうか、なんて思いたくなる程に。

平々凡々のボクとは正反対どころか同じ物差しで測ることすら叶わなくて、非の打ち所がない、という言葉を体現したかのような人物。
【十神百夜】だなんて、名前すらかっこいい。

『ところで、お前は誰だったかな?悪いが覚えていないんだ』

先程聞いたばかりの、冷たい声が脳内で再生される。

『そもそも、覚える気もないがな・・・』

廊下で姿を見かけたから、恐る恐る話しかけてみたら、この反応。
別に好意的な反応が返ってくるなんて期待しちゃいなかったけど、会話中こちらに向けられた視線はまるで床に落ちたゴミを見るようで、ひたすら居心地が悪かった。いや、そもそもあれは彼にとっては会話ですらなかったかもしれない。

『あの、ボクは苗木誠って言』

『聞いていない』

再度試みた自己紹介は冷え切った言葉と視線で遮られて、強制終了された。
言葉のキャッチボールなんてとても出来る相手ではなかったから、当然と言えば当然だ。
そんなことも判断できなかったその時の自分を少し呪った。もうちょっと空気を読めていれば、ゴミに向ける視線を浴びせられるだけで済んだのに。・・・それだけでも、ボクにとっては大したダメージだったけど。

「・・・はあ」

気分はさらに落ち込んだ。
ああ、余計なことを考えるんじゃなかった。

「十神、百夜」

同じ世界に住んでいるのに、生きている世界の違う人。
世の中の不公平さをより一層実感して目を閉じると瞼の裏に冷たい青い目が一瞬映って、ボクはまた溜め息をついた。