うさぎ
彼女と君のことを話している時。君と彼女のことを話している時。三人で笑い合っている時。
何故だろう。どうしようもないさみしさが、僕を襲うんだ。
「タクトくんの眼は赤くて、うさぎみたいだね」
三人で並んで歩くことが『いつものこと』になってきた帰り道。何てことはない会話の一端。
「うさぎかぁ。もっとカッコいいものが良かったなぁ」
言いながらも、満更でもない顔で笑う。彼女の隣を歩く彼も、面白そうに付け加える。
「うさぎはさびしいと死ぬらしいけど、郷里を離れて大丈夫か?」
「あ、何それ。僕がさびしがり屋みたいじゃないか」
笑って言い返す。心のうちの動揺は笑顔で隠して、平静を装う。
「ワコやスガタもいるし、他にもたくさんの人がいるんだから、さびしくはありません」
「そうか?」
「そうなの?」
「そうなの」
嘘だ。それなら今、この胸を焼く痛みは何だ。叫んでしまいたい衝動は何だ。けれども知られてはいけない。この二人には絶対に。
「タクトくん、毎日楽しそうだもんね」
「ああ。宣言通り青春を謳歌してるな」
「でしょう?」
ちゃんと楽しげに見えていることに安堵する。大げさに胸を張れば、二人は顔を見合わせて、笑いあう。
「どうして笑うかなぁ」
不服そうに口をとがらせれば、二人の笑いは大きくなって、反比例で胸の痛みは増す。
苦しくて、苦しくて、泣きたくて。
郷里を離れたことなどさびしくはない。さびしいのは、こうやって笑っている時だ。
どうか、二人で笑わないで。
――どうか、二人で笑っていて。
僕も仲間に入れて。
――どうせ仲間には入れない。
いつか、分かりあえる?
――いつまでたっても触れられない。
ずっと傍に居させて。
――ずっとなんてあり得ない。
この島に生まれていたら。
――この島に来なければ。
相反するものが浮かんでは相殺されて、声にならずに沈んでいく。
「でも、確かに、タクトくんが来てから賑やかになって、楽しくなったよ」
「それは言えてる」
笑う二人。やはり、この二人に知られてはいけない。
もし、さびしいと泣いて叫べば、二人は心配し、宥め、いたわってくれるだろう。けれども、それが怖いのだ。
明確に分かりあえないと示されるならまだいい。しかし、口で態度で、真摯に受け入れてくれても、相容れない部分がある。
絶対に分からない部分があると突き出された時、一体どれほどの孤独だろう。
(さびしさで死にそう、だなんて)
うさぎはさびしいと死んでしまう。
人間は死にそうなほどのさびしさを抱えながらも、生きていける。
(どっちがいいかなんて、分からないや)
それでも。
「二人が楽しいのなら何よりだ」
三人で笑いあうこの時間を失うことの恐ろしさは、さびしさよりもずっとずっと勝るのだ。