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裏ふぁーすとでーと?

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「黒崎真冬! 俺の男になってくれ!!」
「あほかーーーーーーーっっ!!!」 
 俺の必死の懇願は黒崎が放ったコークスクリューパンチによって、無残に砕かれた。

――ってちがうわ! ここで終わらせてたまるかーっ!!

そのまま家の中に入ろうとした黒崎の肩をひっつかみ、全ての気力と体力を振り絞って黒崎を引き戻す。
「いった、痛いって! 
 もうなんなのよ、一体!?」
 俺の手をたやすく振り払うも(ムカつく)、俺の表情がよほど切羽詰まっていたのかこちらに向き直り話を聞く態勢になる。
「――その件については俺がお話します」
「あ、こないだの買い出し係くん」
「大宮です」
 後ろからひょっこり出てきた、俺の子分である大宮正義も俺と同じく深刻な顔である。
「……なんなのいったい……?」
 心底困惑しているようだが、そんなことに構っていられない。
「……実はな……」
 重々しく口を開くが、言葉が出てこない。
 こんなことなんていやいいんだ?
「実は桜田さんが北校の番長に告白されたんですよ」
 ……あっさりいいやがった……。
 おそるおそる黒崎を見ると、なんともいえない微妙な表情で俺を見つめてくる。
 ふう、とひとつ深く溜息をつくと、俺の肩に手を置いて、
「とうとうそっちの道へいくのね……」
「どっちの道だ~~~っ!!!」
 たまらず絶叫するが、黒崎はそっと目頭を抑え、
「いいの。いつかこうなるんじゃないかと思ってたから。
 私は暖かく見守るわ。一万光年ぐらい離れて」
「見守るなーーーーーーーー!!!!!」
 じゃ、と手を上げて再び家の中に入ろうとする黒崎をはがいじめにして引き戻す。
「だから断る口実としてオマエが俺の彼氏役をやってくれって頼んでるんだろ!」
「だからお断りに決まってんでしょーがっ!! ホントに間男になっちゃうじゃん!
 だいたい私じゃなくてもアンタの子分たちの誰かにやってもらえばいーじゃん!!」
 すごい力で俺から離れようとしながら声を張り上げる黒崎を冷静な声が押しとどめた。
「――それが俺たちじゃ無理なんですよ」
 その台詞にやっと黒崎の動きが止まる。
 それを予測できなかった俺は黒崎の背中に抱きつく羽目になった。
 ……はにゃがいてぇ。
「なんでさ?」
 俺を背中にくっつけたまま問う黒崎。
「考えてもみてください。
 もしも俺らのうちの誰かが、彼氏として桜田さんに付き添って断りにいったとします」
「うん」
「だけどその際、葵さんが『俺と勝負しろ!』なーんてことになったら……」
「……勝ち目はなさそうだね」
「……ええ、残念ながら……」
 重々しく頷く大宮と似たような表情で、頷く黒崎。
 ってか、大宮の話なら聞くのかおまえは?
 ……なんかムカつく……!!
「まあ、とゆーわけで真冬さんには大変ご迷惑をおかけしますが、桜田さんの彼氏役引き受けてもらえないでしょうか?」
 はあ、と大きく溜息をついて、
「まあ、桜田のバカはともかく子分たちがこれじゃあ可哀想だもんね。
 それに万が一葵さんが、桜田が本当は男なんて知ったら……」
「……ええ。これから試合も近いみたいですし。
 気落ちしたまま負けたなんていったらさすがに……」
「それは気の毒だしねえ」
 しみじみと語らう二人。
 おまえら俺の存在忘れてねえか!?
「じゃあ、彼氏役やってくれるんだな! 黒崎!!」
 俺が声を張り上げると、ようやくこちらを振り返り、
「いっとくけど、アンタじゃなくて子分と葵さんのためにやるんだからね!」
 ――ぐっ。
「それと、アンタこの件がすんだらしばらく女装禁止!!」
「うっ。
 ……わかった……」
 確かに、これ以上俺の可愛さで惑わせる男が出てきたら大変だもんな。
 俺が神妙な顔で了解すると、ほんとにわかってんの?という疑わしそうな視線を向けられる。
「……でも、とはいっても私だってそんなにうまく彼氏のふりできるかわかんないよ。
 一応バレないとようにはするけど」
 眉間に皺をよせ、難しい顔でいう黒崎に、
「大丈夫ですよ! 真冬さんがいつも女性に対する態度で桜田さんをエスコートしてくれれば間違いありませんって」
 言い切る大宮に、合わせて俺も、
「そうだぜ! 
 大体、オマエの中身は女じゃなくて、男かアルパカに決まってるんだからいつも通りにしてくれれば大丈夫――ぐがっ!!」
 唐突に黒崎が放ったアッパーが俺の顎に命中した。
「……大宮くん。
 もうこのバカどっかで手術とか受けさせて、女にしたほうがよくない?」
「……すみません。馬鹿なコほど可愛いと思って勘弁してあげてください」
 それが薄れゆく意識の中で、俺が最後にきいた会話だった……。

作品名:裏ふぁーすとでーと? 作家名:如月花菜