死んだ彼と灰の薔薇
冷えた空気の中で、手に持った花が脆く崩れ落ちた。指の間から黒灰が降っていく。彼によく似た紅だったのに、今ではただの真っ黒な炭素の塵になってしまった。
この冷えた大理石に横たわる彼が、その灰の中から蘇りはしないだろうか。
氷のような石床に体温を奪われた座り込む脚が、もう麻痺してしまって何も解らない、感じない。己の心のようで微かに湧く親近感。傾ぎそうになる身体を辛うじて支えている腕も震えて力が入らなくなってきて、灰とともに握り締めた拳にどこからか生温い水分が落ちてきた。…嗚呼、温かい。
奪われた体温を補うために、私は、壊れたようにその雫を降らせた。
(嗚呼、あんなにも、あんなにも憎んでいたのに。)
最後の花が、崩れ落ちた。
【死んだ彼と灰の薔薇】