真っ逆さまに終点
運悪く隣の席に腰を下ろした親しくはないけれどからみ酒の先輩が、自分の押しの弱い気性が仇となっての断り難いおかわりを勧めてくる。賑わしい席の片隅でのごく小さな遣り取りであるから、気に留める者も居はしなさそうだ。ついこの頃掴み掛けてきた酒量をまずいまずいと思いながらもじりじりと越え、上がった体温に無事帰れるだろうかと心配になった頃合。
そのこ大丈夫、と振り切ってまで退席しなかった故の一つである、お酒が入ったからであるからかいつもより艶やかな微笑を大盤振る舞いしていた、密かに鑑賞対象の先輩の柔らかな声音がして気が抜け、意識が朧気になる。
最後に包まれたのは、掬い上げられる浮遊感といい香り。
肌寒い朝の気温に、手短にあった温いものに擦り寄る。するといい香りがそこかしこにすることにようやく気付く。一瞬で目が冴えた。
自分が絡みついていた正体は意外にしっかりとした腕で、もう片方など腕枕にしているからびっくりだ。
此方が目を覚ました気配に腕の持ち主も起床して、その寝惚け顔ながらも黒猫のような優美さを保つ憧れの先輩がにこりと微笑む。しかして形のよい唇から紡ぐ言の葉は穏やかではない。
「そうだな、多分君の抱く印象は物静かで素敵な先輩って辺りかな?悪いけど振りだけで、本性は性別に見境ない上に肉欲だってあるんだ。がっかりしたかな」
チャンスだと思って周りをだまくらかして、お持ち帰りしちゃったとのたまう、一晩を過ごした相手と思しき綺麗なひと。
酔っていた所為か断片の記憶しか残っていないけれど、やたらと初めては怖くて痛みに気をとられていたと思う。
自分でも意識して触れたことがないような箇所を口付けられ吸い付かれるという未知に、ただびくりと縮こまる。お腹の下方を掻き回すのみでなくえぐられるのではないかと思わせる行為にひたすら固まり、知り得ていなかった感覚と自分のものでないような声に戸惑ってしまっては生理的な涙が朱がさした頬を滑る。
だがそれでも怯む自分に根気よく労りを掛ける声音はしかと耳に残っているし、大丈夫と繰り返すその優しい調子は確かに覚えている。それはきっとつまみ食いであっても許してしまう程には、嬉しい扱い。
突き上げて達っせられはしなかった。抜かれたと思えば、前を強めに弄られ何度目かの射精を促される。数秒して相手のものを腹の上に出された。
果てたばかりの荒い呼吸で、感じた疑問を口にした。
「中に出さないんですか?」
「純朴そうな顔してそんなこと言わないの、無理させたくなる。…お腹が痛くなるらしいからね、しないよ」
ひどく優しい声が、薄れていく意識への子守唄替わり。
「呆けてるね。いきなり過ぎて、信じられない?」
「…は、はい…。そうですね…」
違和感のある喉と身体の奥の方でじんわりと残る痛みに気をとられつつも返事をする。
はい、だってまさかすきなひととこうなるとは。