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世の中は不公平になるようにできている(side:t)

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軽い。まるで女みたいじゃないか。
肩にかかる重みは、とても同い年の男のそれとは思えない。
やたらと低い身長も、その印象に拍車をかける。
容姿も、実に平凡。良くもなく悪くもない。

世の中は不公平だ、と思う。同情なんてする気はさらさらないが。

ふざけた入学式の終了後、名前は覚えていないがプランクトンのような男との会話に突然割って入って来た、この男。こいつも名前は覚えていないが、とんだ馬鹿でおせっかいな性格のようだ。あの見るからに暴力しか取り柄のない男につっかかればどうなるかなんて想像するのは容易いことのはずなのに、わざわざ仲裁に入って来た。直後、当然のように吹き飛ばされて、意識を失った。ありえない馬鹿だ。

そしてその馬鹿は現在、この敷地内のどこかにあるという寄宿舎に連れて行って休ませるため、ぐったりとして俺の肩に担がれている。意識はまだ戻っていない。
なんでわざわざそんなことをしているかと言えば、理由は単純。後になってせっかく仲裁に入ってやったのに介抱もしなかった、などと意味不明な理由でぐだぐだ言われたくないからだ。いかにもお人好しそうな顔のこいつがそんなことを言い出すとは思えないが、人は見た目によらない。面倒事の種は極力摘んでおくに限る。

やたらと悪趣味な照明に照らされた廊下に、かつこつと足音を落としながら歩を進める。

(それにしても、とんだ展開になったものだ)

歩きながら、先程のモノクマだとかいうふざけた人形を思い浮かべて舌打ちをする。
――一生終わらない共同生活を打ち切る方法は、生徒同士の殺し合い。
入学式で語られた内容は、冗談などではないだろう。
こんなことになるとは、さすがに計算外だった。

(まあ、それでも)

つまらない日常に、たまにはこんな刺激があってもいいか、とも思う。本当にそれが自分が面白いと思うに足りるものになるかどうかはまだ、分からない。分からないが、これからの生活を考えると、何故か笑みが浮かんだ。


「・・・ここか」

思考を巡らせるうちに、目的地に到達したらしい。目の前には、肩に担いだ人物をデフォルメしたようなイラストに"ナエギ"という恐らく名前の入ったプレートのついたドアがある。
ドアノブを掴んで下げると、ガチャリと簡単に開いた。鍵はかかっていなかったらしい。

殺風景な部屋に入ると、探すまでもなくベッドは見つかった。
ぽい、と投げ捨てるように肩の重みをそれに放ると、溜め息が漏れた。

世の中は実に不公平だ。

こんなどこにでもいるような人間と、そんな人間達の頂点に立つ自分。
明らか過ぎる優と劣。
けれどそれは仕方ない。そうでなければ、世界は回らないのだから。

必要にかられたとき、俺はこいつを殺すかもしれない。
単純で騙されやすそうだから、実に簡単だろう。
――もっとも、同様の理由からその前に他の誰かに殺されているかもしれないが、その時はその時だ。

「せいぜい、ない知恵を絞って生き延びることだな」

ぽつりと呟いた言葉は、ベッドに横たわる人物に向けたものなのかどうか。
それは自分でも分からなかった。