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【ノマカプAPH】望んだもの、望まないもの【波辺】

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ふと表情が翳ったかと思うと、いきなり押し倒されそのまま馬乗りされる。しかし彼女はなにを食べているのだろうというほどに軽く、少し暴れただけですぐによけることが出来そうだった。
それを今やったとして、彼女はどんな反応を見せるのだろう…それもそれで面白いのかもしれない。
そんなことを考えているなんて知らずに、彼女は先ほど一瞬見せた表情とはうってかわった、怒りと恨みをぐちゃぐちゃにしたような表情でこちらを睨み付ける。綺麗な顔が、勿体無い。
彼の服を握りつぶすようにぐっと掴むと、今まで堅く閉ざされていた口から言葉がつれづれになってこぼれだす。

「なん、で…?」

すぐ服を握り締めていた手を離したと思うと、八つ当たりするように胸を殴りつける。一つ、二つと。
そんな力で殴ったって、全然痛くないのに。彼女はただただ殴りつける。
ああ、彼女の長い髪が頬をかすめてくすぐったい。

「なんで兄さんは、お前ばっかり…!」

小さくか細く叫ばれた声は、それよりも強い力で胸を叩き付けた。
涙をこらえるような表情で見下ろされる。それをじっと無表情で眺めると、みるみるうちに顔が歪んでいった。
――勿体無い。

「こんな奴の、ポーランドなんかの、どこが…っ」
「なあ」

憎しみという刃をむき出しにした言葉を包み込む。優しく、優しく、壊れないように。
目を細めて彼女の髪をすっとかきあげると、彼女の肩はびくっと震えた。綺麗に輝く瞳が揺れる。

「お前は、笑えばいいと思うんよ」

ぷるぷると震える彼女の…ベラルーシの体を支えながら、相変わらず無表情で。プラチナに光る髪をゆっくりと梳く。
瞳は、大きく見開かれていた。

「なに、言って」

兄を愛しすぎた彼女は、なんて悲しいのだろう。
愛が強すぎるゆえに、純粋に向けることの出来ていた笑顔を失ってしまった。
彼女は、ベラルーシはきっと、兄に執着しすぎたために広い世界を失ったのだ。
狭い世界へと閉じこもって、兄を生きるための糧と、材料として。自分と兄以外の者に一切目を向けないように。

「そんな顔したら、お前の綺麗な顔が台無しやし」
「…っ」

この言葉がキッカケになったように、必死に支えていた体が崩れ落ちる。
それと一緒に今まで支えてきたものが全て崩れてしまったように、ポーランドの服に顔をうずめて、体を震わせ声を出さずに叫ぶ。
涙は、出ない。

「なあ、ベラルーシ」

望んだ愛を受けられない者。
望まない歪んだ愛を向けられた者。

「笑ってくれん?」

――どちらが、幸せなのだろう。