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さきさかあつむ
さきさかあつむ
novelistID. 18695
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星降りの夜

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ルルーシュは途方にくれていた。
 目の前で閉じた扉を腕組みして睨んでも、事態は何も変わらない。扉は無常にも沈黙したままルルーシュの前に立ちはだかっていた。……別に特別なカギがかかっているわけでもなく、ただ単に扉は閉じているだけだ。開けようと思えば扉はすぐに開くだろう。けれど、部屋を追い出される前のスザクの顔を思い出せば、扉を開けるには恐ろしく勇気が要った。
 ルルーシュの手には小さなトレイがある。トレイの上には甘い香気と温かな湯気を立てるカップが二つ。ルルーシュがついさっき台所で作ってきたショコラショーだ。このままここに立っていては、せっかく作ったのに冷めてしまう。
(出て行け、とは言われたが……)
 ルルーシュは、別にスザクを怒らせるようなことを言ってはいないはずだ。何かを言う前に追い出された、と言うほうがむしろ正しい。
 今夜は、日本が小惑星探査のために飛ばしていた人工衛星を回収する日だった。4年計画で打ちあげられたものだったが、トラブルに見舞われて3年ほど帰還が伸びていた。その探査機が、今夜、地球に帰還した。試料カプセルの回収が成功すれば、日本は人類初の偉業を成し遂げることになるのだ。宇宙開発を行っている国々はきっと、どの国も今夜の帰還と明朝から行われるカプセルの回収を、固唾を呑んで見守っているだろう。宇宙開発は黎明期からブリタニアの独壇場であったが、ここ10年ほどは日本もかなり力を入れていて、今や日本もトップクラスの技術力を持つようになった。今夜、その技術力がどれほどのものであったか、改めて世界中が知った夜だった。
 日本の宇宙開発は、十数年ほど前から特に力を入れて予算が注ぎこまれた分野だ。けれど日本は一年ほども前に政権交代があって、宇宙開発も含めた研究分野は大幅な予算縮小になっている。だから、今回のミッションは、今後の日本の宇宙開発のありかたの分岐点になるだろう。
政治の話はおおよそ興味のないスザクだが、どうやら宇宙や星の話は好きらしく、どこから調べてくるのか、流星群がよく見えるとか、日食、月食、はては金星食なんてものまで、日付を調べてきては、ルルーシュに、一緒に見ようよ、と誘いをかける。
 今日もいつもと同じようなパターンでスザクに誘われて、ルルーシュはスザクと一緒にスザクの部屋で小惑星探査機の帰還ミッションをインターネット中継で観ていた。途中回線の混雑等のトラブルでやきもきさせられたけれど、探査機からカプセルが射出され、探査機本体が大気圏に突入して火球になり燃え尽きるところまで、二人一緒に肩を並べて食い入るようにパソコンのモニターに見入った。
 感動した。探査機は軌道、時間、ともに予測どおりに地球に帰ってきた。うつくしい光の軌跡を残して探査機は地球の大気に抱かれ、そうして消えた。
 スザクも大きな目をきらきらさせて、すごいね、きれいだね、と連呼してはしゃいでいたのだ。……そのときまでは。
 その後に、さっきの流れ星になったところがもう一度見たい、と言ってネットサーフをはじめて、それから少ししてスザクは突然嗚咽もなくぼろぼろと大粒の涙をこぼしはじめた。
 何がどうして突然泣き出したのか全くわからず、どう声をかけたものか迷っているうちに、スザクはティッシュペーパーの箱を抱えて、ルルーシュにぽつりと言った。
『ごめん。ちょっとの間だけでいいから……一人にしてくれる?』
 普段、直接的な要求をあまり口にしないこの幼なじみに、あんな風に言われてしまったら、ルルーシュにはもう、どうしていいのかわからなくなって、そうしてルルーシュは言われるがままに部屋をでた。

 それが、今から三十分ほど前の出来事だ。
 ルルーシュは意を決して扉をノックする。
「スザク」
 扉の向こうから応えはない。けれど、扉が内側から開かれて、目元を真っ赤に腫らしたスザクが出迎えてくれた。ルルーシュは少しだけほっとしてスザクの部屋に入る。ルルーシュが部屋に入って扉を閉じると、スザクはベッドに腰を下ろしてまだぐずぐずべそをかいている。
 原因がわからないから、慰めようにもどう慰めればいいのか見当がつかない。
「ショコラショーを作ったんだが、飲むか? お前、好きだったろう?」
「うん。飲む」
 スザクは潤んだ目でルルーシュを上目遣いに見た。どうやら、ルルーシュのせいで泣いているわけではなさそうだ。それに、期限が悪い、ということもないように見える。ルルーシュはトレイを持ったままスザクの横に腰を下ろし、カップをひとつスザクに差し出す。スザクもそれを素直に受け取ると、手の中に抱えるようにカップを握って、そうして一口、くちをつける。
「……さっきはごめん、急に」
 スザクはバツが悪そうにそう小さな声で言うと、またカップにくちをつけた。
(と、いうことは、原因は俺ではないということだな)
 ルルーシュは必死でスザクの涙の原因をシミュレートしつつ、トレイからカップを持ち上げてくちをつける。甘いカカオとミルクの香りがとても心地いい。甘さも程よくて、我ながら完璧な出来だ。ショコラショーの出来は完璧だが、しかし、スザクの涙の原因はルルーシュには同定できそうにもなかった。どう考えても33通りの原因から先に絞りこむことができない。
「いや、いいんだ。……それで、どうてしなのか、聞いてもいいか?」
 ルルーシュは意を決して涙の原因を問うてみる。どうやらもうすっかり落ち着いているようだし、話をしても問題はないだろう。そう踏んで問うてみたのに、スザクはまた前触れもなくぽろりと涙をあふれさせる。
「分かった。り、理由はいい。聞かない」
 ルルーシュは焦った。
 正直に言って、スザクにベッドの上で迫られた時よりも焦った。スザクが泣くところなんて、もうここ五年は見たことはなかったから、どうしていいのか分からなくなる。ルルーシュはとにかくスザクを泣きやませるべくベッドサイドに置かれたボックスティッシュからティッシュを引き抜いてスザクの目元をぬぐってやった。スザクはルルーシュになされるがままぐずぐずとべそをかいていたが、やがて甘えるようにルルーシュの肩にもたれかかる。
「抱きついてもいい?」
 頷くと、スザクはルルーシュの腰に腕を回してぎゅっと抱きついた。
 涙の理由は結局よくわからない。けれど、こういう風に弱っているスザクに頼られるのも悪くない。




***
はやぶさのラストミッションが地球の撮影だったっていうトコロのネタ
あのラストショット見て泣いちゃうのはきっと世界中で日本人だけなんだろうなあというネタでした。
作品名:星降りの夜 作家名:さきさかあつむ