卯年なので
年が明けたというのに彼は心底憂鬱そうな顔をして寝床から起き出し、開口一番そう言った。
「どんな、夢だったのですか?」
初夢というとその一年を表す夢であったりするのだが、彼の表情を見るにあまり良いものではなかったのだろう。
ちなみに僕は何か夢を見たような気もするが、目が覚めたときにはまさに夢らしく全く覚えていなかった。目覚めたときにはすっきりとした気分だったので決して悪い夢ではなかったのだろう。そう、全くなんの夢も見ないでぐっすり眠っていたから、と言うわけではないはずだ。まさか彼が新年一日目からいきなりあんなことをしてきたせいで疲れたからなどではない・・・はず、です。
「お前が出てきたんだがな・・・」
「それでそんなに憂鬱そうなんですか」
多少傷つくが年が明けても彼らしいと言えば彼らしい反応だ。今年も付き合っている割に冷めた彼の態度と僕の諦念したような付き合いになるのだろうな。
「いやそうじゃない。お前が出てきたのが問題じゃなくてだな。てかお前が出てくるのは別にかまわん」
・・・そして時々彼のこういうストレートな物言いに恥ずかしさを覚えるのも変わらない気がする。
「なんでかお前がバニーだったんだ」
すみません、こういう発言は今まで聞いたことが無いような気がしてどういう反応を返すべきでしょうか。
えっと、彼の夢に出てきたのが僕で、その僕がバニーだった?バニーというと真っ先に出てくるのが、何度か朝比奈さんが着用されていたあの真っ赤なバニーガールの衣装を着ていたということだろうか?正直なところ勘弁していただきたい。
「いや、違う」
思わず安堵の溜息がこぼれた。
バニーと言うから僕はてっきり・・・ああ、バニーと言うとウサギですからね。前にスーパーのバイトで着たような着ぐるみのウサギバージョンとかそんなものでしょうか。
「いや、バニーガールはバニーガールだ。朝比奈さんモデルの赤じゃなくて前にハルヒが着てた黒だったがな」
色が違うだけで結局バニーなんですか・・・細かい訂正のための否定はいりませんよ。ぬか喜びさせないでください。
いくら彼が勝手に見た夢とは言え、そんな格好で登場した自分を想像すると彼が憂鬱に感じる気持ちもわかってしまって、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「そう思うならお前、今度でいいから俺の前でバニーの格好しろよ」
「え?あの、新年早々バニーガール姿の僕の夢を見て、気分を害して憂鬱になったのではないのですか?」
「俺が憂鬱なのはバニーガール姿のお前を前にして何もできずにただ見てるだけしかできなかったせいだ」
そうですか。しませんよ。
彼がすかさず抗議の声を上げるけれど僕はそれを聞かないことにする。
昨日、あけましておめでとうございます、の後に続けて今年もよろしくお願いします、と挨拶をしたのを少しばかり後悔する。そういえばこの挨拶の直後に押し倒されて僕の意図しないよろしくをされたのだったな。
ああ、今年も去年とあまり変わらないような気がして大丈夫でしょうか。
どうぞ今年もよろしくお願いいたします。