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Sleeping Beauty...?

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Sleeping Beauty...?

*


 男の薄い瞼の上に刻まれた幾つもの皺を、仙蔵はじっと見つめている。刻まれた皺は隈の濃さに比例するように、襞の数を増やしていた。
 男はうつらうつらと船を漕ぎながらも、気持ちよさそうに寝入りそうになった途端、弾かれたようにぱっと目を覚ますので、その姿が何だか面白い。思いがけず仙蔵が笑みを零すと、文次郎は不機嫌そうにこちらを睨んだ。
「何だ、眠れないのか。」
「ああ…。暫らく睡眠をとらずに生活していたものだから、眠り方を忘れてしまってな。」
「そんな馬鹿な。」
 男は目尻の端に皺を寄せて笑っていたが、血走った両の瞳が、その言葉が嘘でないことを証明していた。
 元々男が不眠気味なのは知っていたのだが、まさかここまでとは思わず、仙蔵は暫し言葉を失った。こちらを安堵させるために浮かべた笑みが、痛々しく仙蔵の目に映る。
 何だか居た堪れない気持ちになり、仙蔵はそっと男の背を摩った。文次郎は一瞬大きく目を見開いたが、やがて目を閉じると、ようやく聞きとれるくらいの小さな声で、少し楽になったと呟く。その言葉に満足し、仙蔵が背を摩る手を引っ込めようとすると、すかさず文次郎がその手を掴んだ。瞳は閉ざされたままである。
「…仙蔵。」
「どうした。」
「手を、」
 もしよければ、俺の手を握ってはくれないか。
 ひび割れた唇がそう形作ったのを見て、仙蔵は次第に頬が緩んでいくのを感じた。
――この男が甘えてくるだなんて、今日は何と素晴らしい日だろう。
 しおらしく告げられたその言葉に、仙蔵は文次郎を大層愛おしく感じて、ざんばら髪を優しく撫でつけた。
「手を、握るだけでいいのか。」
 額に軽く口付けると、眉間に寄っていた皺がゆっくりとほぐれていく。
「朝まで、傍にいてくれ。」
 勿論だ、と言葉にしない代わりに、仙蔵は文次郎の手を力いっぱいに握り締める。どちらからともなく見つめ合うと、二人は微笑みながら口付けを交わした。



(Sleeping Beauty...?/2011.01.04)
作品名:Sleeping Beauty...? 作家名:ひだり