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懺悔の文

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あの大戦が終わって間もなく。
私のよき友人の家は2つに分断されました。
ロシア側を兄が、アメリカ側を弟が受け持つことなり、2人はそれはそれは悲しんでいらっしゃいました。
当時は私も随分とボロボロだったので何もできないことが歯痒かったのを覚えています。

私、日本という国の国民的特徴としてよく、『空気を読む』というものが挙げられます。
国の権化たる自分が読まない訳にはいかないという空気を読み、またその内容も空気を読めているとは到底言えないので空気を読んで、黙っていたことがあります。だから自分の意見を言えと叱られてしまうのですね。
それは、帝国の統一、分断当初、そしてその数十年後に訪れた再統一のときに沸きあがった私の感情のこと。

昔、いえ今も私には尊敬する師がおります。
薄い色の金髪に青みが強い紫の目。とても美しい人だと思いました。恋焦がれていたと言っても過言ではないほどに。
私の師には可愛らしい、弟がいらっしゃいました。まだ子供で、国の体を為していない頃、体が酷く弱かったと聞いています。
その弟君のヴェルサイユ宮殿での戴冠式において、私の師匠は国であるという存在意義を失いました。
合衆国の中心、国と実質的に並列する立場でありながら、そのがっしりとした体躯は失われていったように思います。

そして、かの大戦の後。
彼はまた分断後の国の片割れを担ってかの極寒の国へ赴きました。

更に数十年後。
吸収合併という形でその2つの国は1つに戻っていったのです。


告白しましょう。
私の以上の出来事に対する意見いずれも、あの人とは反対でした。




弟君の戴冠。
あの人はそれはそれは嬉しそうにそれを伝えてくれたけど。私は反対でした。
だって弟君に国の座を譲ったら、あの人はどうなるのでしょうと考えてしまったのです。
結局、あの人は僅か衰退した程度で済み、そのまま大戦へと持ち込まれました。

そして、分断。
皆は悲しんでいました。
私は、たとえ邂逅に自由が利かずともあの人の不安定な立場が一国を与えられることで安定するならと、喜んだ。
世界会議ほどでしか姿を拝見することもなく、体の具合も良くはなさそうと思ったものの。
私はその状態が安心できました。

けれど訪れた1989年。
壁が崩れたと、喜びの声の中で知らせを聞いて私は思わず涙を流しました。
だって、吸収合併だなんて。

・・・・・あの人が、消えてしまうなんて。


統一からしばらくして。
半ば絶望にも似た気持ちでかの弟君に招かれ、ベルリンの家を訪ねました。
ゆっくりと開かれた扉の向こうには、胸を上下させないあの人が寝ているのだろうかと思うだけで息が詰まりました、
けれど、カーテンが開かれて明るい室内には、ベッドの中からこちらに手をゆるりとのばして微笑んでいるあの人がいました。
まだひやりと冷たい手に触れたその時に、自覚いたしました。
私はこの師が愛おしいのだと。

それゆえに、彼の存在を危ぶませる統一を厭うて、一国を与えられて安定する道を喜んだ。
どうか、許してください。
あの人の感情に同調することもできない私を。
ことごとく、あの人と反対の選択をしてしまう私を。



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カサ、と音を立てる古い紙を『マリアへ』と書かれた封筒に慎重にしまう。
見ないほうがよかったのかもしれないけれど、見てよかったと素直に思う。
今は恋人となったあいつの本心。
当時はただ消えなくてよかったと笑って俺の手を握ってくれてたあいつが、こんなことを考えていたなんて。
全く腹の底が読めない爺だと悔しく思う。この宛名も、聖母を指すのか、かつての己を指すのかもわからない。


「ギルベルトくーん?どこにいらっしゃるんですか?」

ああ、あいつが呼んでいる。
出来る限り迅速に、音を立てずに封筒を引き出しにしまう。
あわよくばこの部屋にいたことさえ気付かれないように、彼がいるであろう居間に向かう。

しゃ、と襖を開けると立ち上がりかけている愛しい彼。
堪らなくて堪らなくて、不思議そうな色を浮かべた彼に思い切り抱きついた。

「ちょ、ッ・・・」

ばたーん、と豪快な音を立てて2人一緒に居間の床に横倒しになる。
俺の下で痛そうな顔をする恋人に思い切り口付けた。

「ん、ッ・・あの、どうしたんです?」
「へへ、いいだろ別に。すげえキスしたくなったんだからよ」

きっと泣きそうな顔をしていたのだろう。
彼は不可解そうな、心配するような顔で俺の頬をその暖かい手でするりと撫でた。

「菊」
「はい」
「お前俺のことすげえ好きだろ?」
「、え?ええ、とても好いておりますが・・」
「よし、聖母に誓って俺様お前と添い遂げてやる。絶対途中でいなくなんなよ」

やはり不可解な表情を僅かに残したまま、彼は赤い頬で受けて立ちます、と口付けてくれた。
作品名:懺悔の文 作家名:桂 樹