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奪われた純情

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ありえない。
ありえないだろ。



帝人は必死に心中で否定を繰り返す。言葉で吐きださないのは、声を生み出す器官が塞がれているからだ。
誰のせいで?
そんなの、唇を塞ぐ元凶のせいに決まっている。口内を、舌を、喉の奥さえも侵さんとばかりに蹂躙する熱い塊。
ありえない。
もう一度繰り返す帝人の心に反応したのか、睫毛と睫毛が触れ合うほど近くに在る切れ長の眸がぶれた視界の中でにぃっと細まった。
帝人は混乱と恐ろしさで、ひくり、と喉を鳴らした。




何時もどおり、正臣と杏里と3人で他愛の無い話をしながら、帰路についていたはずの帝人を襲った非日常。
最初に口を大きな掌で塞がれ、腰を掬いあげたもう一つの手で、あっという間に薄暗い路地へと連れ攫われた。
何が起きたのか理解する前に、視界が金色を認識し、そしてそれにイコールする人物を脳内が弾きだす。
どうして、
疑問の声は掌の代わりに落ちてきた肉厚の唇でもって塞がれ、音になる前にあっさりと呑み込まれてしまった。
瞠られた眸に映った、笑みを象る眸。
ぎらぎらと煌めくそれは、愉悦と快楽と欲情に染まっていて、今までそんな視線に晒されたことなどもちろん無かった帝人の脳内は一瞬にしてパニックになった。
お互いがお互い、視界を閉ざさぬまま、口づけが一方的に交わされる。
にゅるり、と長い舌が縦横無尽に帝人の口内を荒らしては愛撫し、侵し尽くす。
ぞくりと背筋を走ったのは、嫌悪なのか快楽なのか。それすらもわからず帝人は灼熱に翻弄された。


ありえない。
どうして、
何で、
僕は、


まるで、全てを奪い尽くすかのようなキスを、されているのだろうか。


このひとに、




――――平和島静雄に。




「――っぷはぁッ・・ッぁ・」
蹂躙は長く、漸く唇を解放された時は帝人はもう息絶え絶えだった。
苦しい。咳き込むように息をする。このまま重力に従って蹲ってしまいたいのに、それすらも許さず帝人を拘束したまま見下ろす男。
帝人にとって平和島静雄という人間は、知り合い――もしくは友人の友人だ――ではあったけれど、それだけの男で、けして口づけを交わすような間柄ではなかったはずだ。
それでも僅かな憧憬を抱いていた相手だっただけに、帝人の内で計り知れない屈辱と裏切りへの憤怒と僅かな哀しみが込み上げる。
息苦しさだけではい意味を持った涙の膜が薄く張った眸で、帝人は男を睨み上げた。
薄暗い中、僅かな光を吸収しきらきらと煌めく蒼に、男の眸が細まった。
長い時間を掛けて、塞がれ蹂躙された唇と舌は、まるで錆びついたように言葉が発せられなくて、ただただ視線で問う。

どうして、こんな、

帝人の『声』を正しく読み取った男は、やはり嗤ってみせた。
先まで帝人を奪い、侵し尽くした唇を歪めて。


「お前が欲しくなった」


男の手が帝人の喉元へと伸びる。細い首筋に指が這わされ、掌が覆い被さった。
ほんの少し力を込められただけで、きっと帝人の首は折れてしまうだろう。
帝人の首は男にとって脆弱なものでしかない。
緊張と恐怖に、こくりと、唾を飲み込む振動が掌に伝わったのか、男は笑みを深くする。
愉しい、男の目がそう告げていた。


「だから、奪うことにしたんだ」


再度寄せられた唇は、触れ合う寸前で止まり、吐息が皮膚を愛撫するように擽った。


「なあ、俺のものになれよ」


ありえない。
ありえないだろ。
ついさっきまで自分は、友人たちと過ごすいつもの日常の中に居たはずなのに。
今、目の前に在るのは、帝人が愛する非日常を背負った男の歪んだ笑みで。
吐息が唇を擽り、睫毛がぶつかり合うほど、近くにあって。
しかも、男は欲しいと嗤ったのだ。
日常に埋没する事しかできない自分を。
欲しいから奪う、と。
誰よりも、何よりも、帝人が恋う非日常にその身を浸らせる男が。



こんなのって、




「―――ありえない」




漸く出てきた声に帝人は怯えた。
これから始まるであろう、理不尽で身勝手で、奪われ奪い尽くされるしかない日々から逃れられないことを知って。
ぽたり、
眸に張られた涙の膜が滴となって零れ落ち、男の手を濡らした。












けれど帝人は知らない。
震える声と共に、うっすらと上がった己の口端を。
そしてそれを見た男が、狂気にも似た歓喜をその眸に宿したことを。
帝人が知る由も、ない。



(本当に奪い尽くされるのは)(どっち?)
作品名:奪われた純情 作家名:いの